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「では娘の方は売り物の石を持ってこい。あぁ、数はいらない。一番売れると思うものを出せ」
真夏が作業中、ぽかんとしている真珠に招き猫が命じた。慌てて真珠も動き出す。
ショーケースを見るとき必ず視界に入る位置。そこから紫の作ったものを取り出した。値段はあまり高くないブレスレット。この店で一番売れるとしたらこれだ。着けやすく贈りやすいブレスレットは、価格が安いのもあって一番の売れ筋だ。
「うん、品は悪くはないな。大衆向けだがこの店に来るだけはある品だ。俺なら量産してド派手に宣伝をするが、丁寧に作られたものというのは悪い印象はない」
招き猫はそう評価した。それが真珠には意外だ。彼の性格ならば厳しく批評されてもおかしくないのに。真夏も慣れない器具に苦戦しながらなんとかコーヒーをいれられ、見様見真似で招き猫に出した。
「どうぞ」
「いただこう」
招き猫は一口飲む。猫舌などではないらしい。
「確かに橘には劣るが現時点でこれというのは期待できる。なるべく橘を真似ているところも好感が持てる」
「あざっす。にしても褒めたりするんすね」
「商品になる気配には正しく評価するだけだ。正直一流とは言えないが、お前達はまだ幼い。それにしてはよくできている。……長期的な計画ならば可能かもしれない」
最後に呟かれた招き猫の言葉。その計画が橘を救う計画となるのだろう。真珠と真夏は次の言葉を待った。
「お前達二人にはこの店を継いでもらう。この人間と怪異のための店だ。続けるのが一番橘の代わりとなれるし、無茶というものでもない。ただし今すぐという話ではない」
宝石喫茶の継続。それは英雄らしからぬ仕事だが、それで橘は人と怪異を救ってきた。それを真珠と真夏にさせようというのだろう。
「橘にはこれから週5で不死石になってもらい、残り2日でこの店で働いてもらう」
「え、働いてもらうんですか?」
「ああ、週休5日制だ。もちろん橘の様子をみつつ調整するし、将来的にはもう少し動けるようになるかもしれないし、もっと休ませてもいい」
不死石はわりと気軽に怪異、人間の姿になることができる。しかしそんな休み方で本当に橘の状態は止められるのだろうか。
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