怪異集まる宝石喫茶

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生け垣をかきわけて顔を出したのは美青年だった。 細い手足や美しい顔が枝葉で傷つくのも構わず、どんなにくずれても無造作ヘアにみえる髪も正さず、生け垣を出て辺りを見渡す。 見えるのは公園で遊ぶ子供が何人か、車を押した買い物帰りの老人。これなら大丈夫だろうと歩道を歩く。制服についた泥や葉をはたき落とす。 今日もなんとか逃げ切れた、そう思った瞬間、  「真夏君、いたー!」 女子の甲高い声が上がる。見つかってしまった。反射的に足は走り出す。とりあえず声とは方向方向に。 「真夏、今日も俺の愛から逃げやがって!」 男子の野太い声もした。そちらだけは行ってはいけないと方向を変える。 しかしそうなるとどんどん自宅から遠ざかっていく。ただ家に帰りたいたけなのに。家に帰ってしまって警察を呼んであのストーカー共を一掃したいだけなのに、今日も無事に帰れそうにない。 真夏はそのモテぶりから多くのストーカーを生み出していた。 元々彼はその容姿とキャラクターでどこにいってもモテていた。元モデル兼女優の母そっくりな顔に、アパレルメーカー社長の父が用意した環境により人当たりがいい。恵まれた環境と遺伝子を得てモテないはずがない。 しかし最近、異常なまでにモテるようになった。クラスメイトや他校の生徒が家までおしかけ、同性である男性までに追われる。明らかに異常だった。 「真夏君、さぁ恋のレッスンを始めようか!」 このように、真夏の学校の既婚男性教諭までストーカーの一人と化していた。ただ異性にモテるだけならそういうものだろう。しかし世間体まで無視してストーカーと化すのはおかしい。それに朝登校する時は皆ここまではおかしくないのに、彼が下校する頃にはこうして追いかけてくる。皆熱を上げて知性をなくしているようなのにどこか規則正しい。 とにかく現段階で3方向からのストーカーが来ている。駅からは女子。公園からは男子。学校からは教師。残るもう一つの方向には商店街がある。 本来なら商店街へ逃げ込むべきだろう。しかし夕方の商店街には人が多い。買い物客や店主まで真夏に魅了されストーカーを増やす結果となるため避けるべきだ。 どこに逃げるべきか、迷っているうちに真夏は人にぶつかった。 「ってぇ!」 柄は悪いが高い声に真夏はぎょっとする。こんなモテ体質になって、一番気をつけているのは若い女性だ。普通なら見ただけで距離を置く。なのにぶつかるまで気づかなかった。 「悪い、急いでいるんだ」 真夏は急いでいても謝りその女性に手を伸ばす。しかしその手を引っ込めた。以前なら自分のしたことが原因なのだからそれくらいの手助けはする。しかし今の異常なモテ期で少女漫画のヒーローみたいなことはやってはいけない。 しかしその女性は髪はピンクのおかっぱで、小柄な体型で黒尽くめの格好をしている事に気付いた。白い石のついた指輪がやけに映える格好だった。 こんな目立つ少女に今まで気付かなかった。そのことがまた真夏の中でひっかかる。
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