怪異集まる宝石喫茶

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怪異化は素人の真夏が思いつくような方法では止まらない。しかし玄人である橘ならば何かアテがあるらしい。それが『不自然』というひっかかりだ。 「例えば、君が大衆に『モテそう』と思われ怪異化するとしたらモデルの仕事中だよね。なのにどうして辞めてから怪異化し始めたんだろう?」 「あ」 怪異というのは目立つものがなるものだ。真夏はいつでも目立っているとはいえ、仕事の時より辞めた今が目立っているというのはおかしい。 「それに怪異化って芸能人だってそう簡単にしないものなんだよ。どんな有名芸能人だって世間の感想は一致しないものなんだから。もし簡単になるのなら『怪異ベストジーニスト』なんてものが生まれているだろうし」 「ベストジーニストならまだやってけそうだな……」 「だから怪異を生み出そうとする流れが確実にあって、それさえ叩けば怪異化は止まるってこと。それが無理なら真夏君にモテなさそうな言動をネット配信してもらえばいいと思うよ。自立してないマザコンアピールとかしてもらえば確実」 「嫌すぎんだろ。モテの怪異になるよかはマシだけど」 今は橘の言うような、この状況を作った元凶を叩くしかない。それが無理ならいくら顔が良くてもモテないアピールをするという地獄だが、怪異になってしまうよりはマシだ。 橘を頼るしかない。 「で、それまでの対処としてだけど。真珠、透明人間の不死石を彼に貸してあげて」 突然自分に話題が向けられ、その内容から真珠は嫌そうに顔を歪めた。透明人間の不死石、白い石の指輪は人の存在感を消す効果がある。だから真夏の問題が根本的に解決するまでその指輪を持たせておけばいいと言うのだろう。 しかしその指輪を持つ真珠だって、誰かに見つかりたくないから指輪をつけているはずだ。 「なんでこんな奴のために私が我慢しなきゃいけないわけ? 私が外出する時はどうするの?」 「僕が代わりに君の外出に付き合うよ。どんな状況であろうと君の呼び出しには応じよう」 「貸す」 変わり身の早い真珠は接客業のため外していた指輪をバックヤードへと取りに向かった。指輪はないと困るが、好きな橘にそう言われてはそちらを選ぶ。 「あの子、指名手配でもされてんの?」 「まぁそのようなものかな」 「……でも不死石って持ち主変わってもすぐ前の持ち主のところに戻るんじゃなかったっけ」 指輪を手に真珠が戻ってくる。白いハンカチで包まれたそれを持って、真夏の隣のカウンター席に座った。 「自我のある石だからね、説得すればいいんだよ」
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