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橘がそう言ってから、真珠は指輪へと語りかけた。
「そういうわけです。構いませんか?」
真珠は年長者への敬意のある声で指輪に語りかけるが。指輪はとくに喋らない。真珠はそれでも真夏の左手をひっつかみ、指輪を嵌めようとする。少女がぴったりの指輪が細めとはいえ男子高校生に入るわけがない。
「いや無理だって、……え?」
しかし指輪はすんなりと真夏の中指に入った。きつくもないし、ゆるくもない。
「良かった、ちゃんと透明人間に認められたね」
「指輪ってそんなサイズ変わるもん?」
「不死石だからね。持ち主を認めたら持ち主に合わせるよ」
橘のふわっとした答えに、逆に真夏は真剣に考えてしまう。しかしすぐ思考放棄した。不思議なことだらけなのだから指輪のサイズが変わろうが突っ込んではいけない。これで真夏はストーカーに追いかけ回されたとしても見つからず逃げられるようになったのだから。
「この指輪はとにかく大事にしろ。そう簡単に割れたり痛む訳じゃないけど、この不死石は元は一人の人間だったってこと、忘れるな」
真珠は真夏を睨みつけて忠告する。不死石の指輪はこれだけ不思議な力を持つので頑丈かもしれない。しかし物理的に大事にするというより、精神的に大事にしろということだろう。この石が一人の人間だったというのなら、真夏も指がぴんと伸びる。
「まぁ、大事にしなきゃ真珠の元に戻ってくるだけだよ。そうなったら僕らも協力しないし、喫茶店も出禁ね。そのまま怪異になっちゃって」
「出禁?」
「だってその不死石は僕の仲間だ。真珠にとっては恩人だ。それを手荒に扱うような恩知らず、助ける義理はない」
橘のやわらかな声色が急に硬いものとなった。真夏は当たり前に人からの預かり物として大事にするつもりだったが意識を変える。この二人に見限られたらおしまいだ。
「ありがとうございます……」
真夏は石に向かって感謝の言葉を述べた。これから助けてもらうことから自然とそう言っていた。それを見て橘は満足そうに微笑む。
「その石は気配をなくすだけ。声を出せば気付かれるよ。あと頭空っぽに君を愛している人達からは隠してくれるけど、君の事を当たり前に考えているであろう人達、例えば友達や保護者なんかには通用しない」
「そっか。あ、でもお代は? 今手持ちがそんなないんだけど」
これだけ助けてもらうとすればきっとお金がかかる。勿論真夏には払う気はある。それだけの事をしてもらっているのだし、例え高額を請求されたとしても両親に相談すればなんとかなるだろう。しかし橘は首を振る。
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