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「僕は友達を売らないよ。それじゃ気が済まないっていう人には慈善団体に寄付してもらっているけど、君は未成年だし。あぁ、でも家にある宝石でいらないものがあれば欲しいかな」
「いらない宝石?」
「うん。君の家は成功している家だから、多分不死石がある可能性は高い。ただ不死石も君の両親を気に入ってるかもしれないから無理には言わないし、普通の貴金属はいらない。絶対にご両親の許可をとってね」
不死石は使い方にもよるがいいことが起きるものだ。真夏の家族のような成功者の家にならあってもおかしくはない。ただそのあるかもしれない不死石にも自我があるため勝手に持ち出されても意味がないというだけだ。
橘も絶対欲しいというものではないが、もし仲間たちがさ迷っているのなら手を貸したいと思っているようだ。
「明日にでもまた来てね。この店は夜からの喫茶店なんだけど君の下校時間には開けておくよ」
「夜からの喫茶店なんて珍しいな」
「うん。怪異が来やすいようにそうしたんだ。怪異って人前に姿を出しにくいものも多いから夜じゃないとね」
真夏はぬるくなったコーヒーを飲みながらその意味を考える。不死の人間なんてこの現代社会では生きづらいだろう。それに真夏のようにストーカー量産する能力を持つものだって夜中に移動する方が都合がいい。
いくら橘が暖かく迎えてくれるとしても、そんな怪異になりたくはないと改めて真夏は思った。
■■■
コーヒーを飲み終える頃には夕飯の時間となる。マンションの高層階にある自宅に帰ってくれば、玄関で真夏の母が待ちかまえていた。こうして無事誰にも見られる事がなく帰ってこれたのは指輪のおかげだ。
「おかえりなさい。今電話して迎えに行こうとしていたところなのよ」
現在も芸能界にいる母、黛千秋はオーラが凄まじく真顔でいるとより迫力がある。その顔が安堵から緩んだ。
このひとつきの息子のストーカー騒ぎで母をすっかり疲弊させてしまっていた。父なんて引っ越しを提案するほどだ。
「ごめん。ちょっとストーカー撒くのに手間取ってて、喫茶店で匿ってもらった」
「そう。その喫茶店って母さんも後でお礼言ったほうがいい?」
「それは大丈夫と思う。……でもそこアクセサリーの、えっと、リメイク、とかやってるから。練習用にいらない宝石とかあったら欲しいって」
「そういう事なら協力できそうね。安物でいいの?」
「明らかに偽物の安物っぽいのがいいと思う」
息子を助けてもらった相手ならばと母はすぐ寝室へ向かっていった。思っていたよりは簡単に石は集まりそうだ。たとえその中に不死石がないとしても、これは自分がやるべきことだと真夏は思う。でなければ橘達も助けてくれないだろう。
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