怪異集まる宝石喫茶

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どういう理屈かはわからない。しかし先程の身の隠し方が知りたい。それを知るにはついていくしかないと考え出した。なによりこの愛想のなさはストーカーに追われ続ければ逆に信用ができる。 「助けて欲しい。さっきの身の隠し方みたいな、教えてくれるだけでいいから」 「……ついてきて」 少女は仕方ないというかんじにそう言った。先程教わった作法の通り、真夏は少女の腕にしがみついた。 「そこまでひっつくな! きもい!」 すると今まで真夏とは縁がないような言葉をぶつけられた。確かにひっつきすぎた。しかし悪口であるはずなのに、今の真夏はなおさら少女を信用してしまう。母親譲りの美貌がまるで効かない相手なんて貴重だ。 真夏は少女の袖をつまむようにして商店街を出る。その裏手の民家まで誰にも見つかることなく歩いた。開かれた門に立て看板が有り、その民家が店舗である事がわかった。ただし開店前だ。そこの表口の鍵を開ける。 椅子がテーブルに上げられている。飲食店、バーカウンターにあるごちゃついた器具から察するにカフェのようだ。 「まだ開店前だから掃除しながら話す。お前はそこの隅で縮こまってろ」 客商売をしているとは思えないほどのぞんざいな扱いだが真夏はまるで気にならない。隅で縮こまれだなんて初めて言われた。言われた通りに真夏は店の隅に移動する。少女は箒を取り出し掃き掃除を始める。 「俺、真夏。君の名前は?」 「……名乗りたくない。店員でいい」 「じゃあこのお店の名前は?」 「宝石喫茶。宝石加工の工房も兼ねている」 そういえばここは古風な喫茶店だが壁には宝飾品の写真が多い。レジの奥にはショーケースがあり、キラキラとアクセサリーの輝きが目に入った。 なるほど、こんな商店街から外れては宝石だけで商売はできない。だから喫茶もして、その客に興味を持ってもらおうというのだろう。 「へえ。そういや店員さんのその白い石の指輪もいいな。詳しくないけどいいものだと思うよ」 真夏はそう褒めたのだが、何故か店員は指輪を手で隠す。 「これはやらん」 「取ったりしねぇよ」 「どうだか」 盗まれるとでも思っているのだろうか。真夏には欲しければ買う余裕はあるというのに。 次に質問したのは宝石だった。 「あんたは宝石持ってる?」 「宝石? 男だし未成年だからそんなに。あぁ、でも親がアパレル関係だからやたら持ってるよ。資産ってかんじのやつだけど」 「そうじゃなくて、持ち歩いているものに宝石は?」 「いや、学校帰りに宝石なんて持ち歩いてないって」 「それだけあんたの状況は異常なのに?」 店員の掃除の手が止まった。そしてまじまじと真夏の姿を見る。確かにアクセサリーのたぐいは一切身につけていない。 真夏は母親そっくりの顔をしているからあまり宝石に興味がない。女顔すぎてアクセサリーをつけると女性に間違えられそうだからた。なにより今の追われる状況で目立ちたくはない。
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