怪異集まる宝石喫茶

5/28
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
「あんたはいつからそうなの?」 「一月前くらい」 「じゃあその頃、誰かに何か貰ったり、何か新しく買ったものはない?」 「花束とかもらったし、バイト代は親に預けたっけ。モデルのバイト辞めたころだったから」 「モデル?」 「やってたんだよ。親の顔立てるために。その時より今のがストーカー多いのか謎だけど」 高校一年生まで、真夏は父親のブランドのモデルをやっていた。それも話題になるからだ。二年生からは学生としての時間が欲しいし受験も控えているし、何より本人にあまり興味がないためやめた。 引退記念に花束をもらった。バイト代は小遣い程度にしか渡されなかったので何も買ってはいない。とくにアクセサリーなんて貰っても買ってもいない。 「その物に、不死石? ってのが紛れてて、だからこうなってるってこと?」 「そう。だけどレアケースってのがあって」 また説明の難しい問題に店員は頭を悩ませる。しかしその間に手助けする声があった。 「その少年はレアケースの方だよ」 店の奥から、若い男が出てきた。長身でしっかりした体格に彫りの深い美丈夫だ。シャツとスラックスにベストとエプロンという格好からどうやら彼もここの店員とわかる。 「橘! もう起きたの? まだ寝てていいのに」 無愛想だった店員の声がはずんだ。そして飛びつくようにもう一人の店員へと駆け寄る。冷ややかだった彼女の目も熱くとろけていた。 「真珠、お客様が来たなら早く言いなさい。僕は君に面倒みてほしくて雇っているわけじゃないんだよ」 「面倒ならいくらでもみるのに」 「こらこら、今はお客様の話だよ」 真夏はこの店の空気が甘くなったような気がした。多分この真珠という店員の少女は橘という店員の青年が好き、もしくは真夏のことが特別嫌いなのだろう。態度の違いに驚きはするが、真夏的には自分のストーカーにならなければどうでもいい。 ■■■ 掃除を終わらせ、カウンター席に真夏を座らせて青年は話をまとめる。 「弟子の真珠が説明がヘタですまないね。僕はこの店の店主で橘という。喫茶店をしながら不死石を集めたり加工して、それとお客様のマッチングをしているんだ」 「マッチング?」 ただの宝石とコーヒーの店ではなかったらしい。宝石と称して不死石を扱っているのかもしれないし、本当の宝石も扱っているのかもしれない。 「不死石には自我があるから。気に入らない人間の元に行くと自力で戻ってきちゃうんだよね」 「そんな、のろいのアイテムみたいな……のろいのアイテムだっけ?」 「まじないのアイテムでもある、だよ」
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!