怪異集まる宝石喫茶

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橘はさまになる手付きでコーヒーを入れる。それをしながら真珠へと声をかけた。真珠はこれから働くためシンプルなエプロンをつけている。 「真珠、君の不死石を見せてあげて。そろそろ真夏君も気付くだろうし」 普段なら真珠も冷たく断る。だが師匠であり好意のある橘に言われては逆らえない。真珠は渋々左手の指輪を真夏に見えるようにした。 「それは透明人間の不死石。つけていると気配が薄くなって気付かれないようになる」 「あ!」 橘の説明に真夏は思い当たる事があった。警戒していたはずなのに真珠にぶつかったり、商店街の寂れた書店にいるだけでストーカーから見つからなかった。その後に左手に近付くよう言われた。それらは全て、不思議な事が起きる不死石によるものだという。 そして真珠はこの石を見せるのも嫌がっていた。真夏が必要としそうなものだから奪われるとでも思っていたのだろう。 「じゃあ俺もそれと同じのをここで買えるってこと?」 「買うことはできないよ。この不死石は真珠のものだ。君がたとえ奪ったとしても、不死石は納得していないからすぐ真珠の元に戻ってくる」 「いや盗んだりはしないけど。似た石とかは?」 「世界を探せばあるだろうけど今ここにないならどうしようもない。なにより君の場合には根本の解決にはならないだろうし」 一瞬喜んだ真夏だが、すぐに現実へ引き戻された。非現実的な話で悩まされているのにそれなりにルールがあって解決しない。 そもそも真夏の問題は異常にモテることであって、『透明人間のように見えなくなる』というだけでは根本的な解決にはならない。 「あ、俺が不死石を持ってるからこんな変な事が起きるって話だっけ。ならそれを手放せば、」 「残念ながらそういう問題でもないんだよね。なにせこれはレアケースだから」 「……だからそのレアケースってなんだよ」 いろいろな事がわかるが解決方法としては前進しない。確かに宝石のようなものを持っていない真夏にとって、持ち歩いている不死石が原因というのもぴんとこないが。 「ざっとわかりやすく言うと、君がその不死石になろうとしているというのかな」 「不死石に、なる?」 こればかりは橘も説明が難しいようで頭を悩ませていた。真夏には余計理解できそうにない。
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