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「ひやかしはしてないわね。息子を推しといただけ」
「それはひやかしだよ。いいからほっといて。あいつそういうの嫌がるから」
真夏は今でも真珠の初対面でも虫でも見るような目が忘れられない。あれから態度も視線も優しくなったが、彼女はそういうのを嫌がるはずだ。怪異婚というただでさえややこしい関係になってしまったのだから、周りが余計な事をしてこじらせたくはない。
「でも興味があるのよ。なんてったってうちの息子の顔に興味がない女の子なんだから。この私そっくりな顔によ?」
「ナルかよ。好みなんて色々だろ」
真夏の顔の良さと言っても、凛々しく整った顔の橘を錯覚で好きだった真珠にはあまり効かないかもしれない。真珠はどちらかといえば筋肉質な石膏像のような顔が好みなのだろう。
「彼女、手が荒れてたわ」
「あぁ、水仕事が多いらしいし」
「そういうのじゃない。古い切り傷や火傷が多くて小さな頃から重労働をしてたみたいな手だった。最近はハンドクリームで保湿はしていたみたいだけど、近くで見たからよくわかる」
そういえば千秋は指輪を見ようと真珠の手を取った。それは真珠の手を見るためだったのかもしれない。その手は表面的にはきれいなのかもしれないが、古い傷は隠しきれない。
「そういう子には幸せになってほしいのよね。で、うちの息子ならその手伝いができると思ってる。真夏だって、嫌いじゃないでしょ」
自分や真珠のことまでも見透かされているように真夏は思った。年長者だからかもしれないし、母だからかもしれない。
「まぁ、かなり尊敬できる人なんだよな。真珠のがんばり見てると俺もなんかやる気になる」
「あなた最近勉強に力入れだしたもんねぇ。モデルやめて毎日腑抜けてるかんじだったのに」
「……そうかも。腑抜けて、そんでストーカー騒ぎでうやむやにしてまだダラダラしてた」
真珠は高校にも通わず働いていて、さらに自分一人で生きる道を切り開こうとしている。それを見ていると自分が怠けている気がする。だから真夏は努力するようになった。宝石喫茶に通った後には勉強をしていたり、それでも真珠には敵いそうにはないが日々忙しくしていた。
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