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今話すのが自然かと、真夏は進路の話をすることにする…
「俺さ、大学は経営の勉強したいんだ。それで将来は店やりたい」
「それはアパレル関係?」
「……いや、コーヒーショップ」
真夏は大学に行くことは許されると思っている。しかしそれは父親の会社を継ぐためとされると考えていた。なのでコーヒーという家と関係のない仕事を目指すと言うには勇気がいった。そこは反対されるかもしれない。
「いいんじゃない?」
しかし千秋の返答は軽いものだった。
「いいの?」
「経営なら変更がきくもの。たとえ夢破れたってお父さんの会社という保険があるわけだし。反対する理由はないし、息子がこうもはっきり目指したいものが見えたなら応援したい」
真夏の環境は恵まれている。留学だって迷いなくできる環境だし、両親共に理解がある。その自覚があるだけによりしっかりしなくては、と真夏は思う。
「あの宝石喫茶みたいなお店をしたいの?」
「うん。……色んな人が集まってるかんじ、いいなと思ってる」
「頑張んなさい。なんなら橘さんに弟子入りしてみたら?」
「それもいいかもな」
真夏にとっえは先の見えない将来の話だというのに、考えてみると楽しい。
いつか店を開こう。人間と怪異、さらには不死石がやってくるあの店のような、魅力のある店を。
■■■
今日も単調な作業と雑談が仕事だった。紫の元で働くようになって、真珠は基礎的な技術がとても正確になったし、作業しながらよく喋る紫に合わせてコミュ力も上がった気がする。
とても疲れるがこれがいつか日常になるだろう。
夕日の中、店の扉を開ける。すると空気がやけにこもっていた。いつものコーヒーの香りがしない。人の気配がしなかった。
「橘?」
橘は大体真珠が帰宅する頃に開店準備をする。なのに橘はまだ掃除もしていないようだ。
まさか寝坊だろうかと、真珠は彼の部屋に向かう。ノックをする。
「橘、寝てるの?」
声をかけても反応はない。その代わりに部屋の中から耳に響くアラーム音が鳴っている。目覚まし時計だろう。それを止めるため扉を開ける。勝手に部屋に入る気にはなれないが、そろそろ騒音の苦情が入るかもしれないから目覚ましは止めなくては。
しかしその騒音の中、橘はいた。アラームにまったく反応していない状態でベッドで眠っていたのだ。
「なんだ、いるじゃない」
真珠はほっと息をつき目覚まし時計を止める。
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