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それでも橘は目が覚めなかった。瞳は固く閉じたまま。
真珠は不安になって橘の口元に手を近づける。かすかに寝息はある。額に触れれば体温も平熱だ。なのにこれだけしても橘は起きる気配がない。
そうなると思い出すのはこの間、彼が眠気のあまりによろけた時の事を思い出す。これはその時の状況に近いのかもしれない。
眠りっぱなしの病気。人間にならあるかもしれない。しかし彼は怪異であるはずなのに。
それから真珠は大声で呼びかけたり体を揺すってみたりしても橘は目覚めなかった。すると店の方からおーいと声がした。
「今日店開けてないの? それなら出直すけど」
来客は真夏だった。まだ準備の整っていない様子の店内を見て、店にはあまり踏み込めないでいる。
真珠は駆け寄り言おうとしたが一瞬迷う。しかし自分だけではどうしようもなく、事情を知る人に見てほしいと話す事にした。
「橘が起きてこない」
「え?」
「声をかけても揺すっても起きなくて……」
状況を言葉にすると真珠は急に恐ろしくなった。彼らは怪異。それもいずれ石になることもあふ 。石といえば保存に適しているもの。そう簡単に何かがあるものではない。
なのに今その何かが起きている。
「上がっていい? で、つねってみるか」
「お願い。私の起こし方がぬるいだけかもしれないし」
不安そうな真珠から、真夏はとてもただの寝坊のようには思えなかった。真夏は店の居住スペースへ上がり込む。そして躊躇なく部屋に入り、彼の動かない頬をつねった。
反応はない。
「……前にアクセサリーの師匠ができるって言ってたよな。その人に相談はできそう?」
「そうだ、紫さんなら……!」
真夏に言われなければ真珠はその事を思い出すのに時間がかかっただろう。
紫なら橘の事情を知っている。そして『自分の身に何かあった時に真珠の保護者となる』と橘も言っていた。『何か』とはこの事だ。
緊急事態として通話する。それはすぐ終わった。
「紫さん、すぐ来てくれるって」
「なら良かった。いや、その人も解決できるかは知らねぇけど、俺らよりは長い付き合いだ。何か知ってるかもしれない」
橘との付き合いは真珠が一年、真夏が3ヶ月もない。それなら付き合いの長い紫を頼るべきだ。
二人はもう橘の部屋でできることはないため、一秒でも早く紫を待つために一階に降りる。
しかし一階店舗のカウンター席に人がいた。また来客だ。
「すみません、店はまだ開いてなくて。ていうか開けられそうになくて……」
「知っている」
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