怪異集まる宝石喫茶

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「そう。石になるんだ。とはいえ、もう一段階別のものにならなくては石にはならないんだけど」 「別段階って、進化かクラスチェンジか? 俺→何か→石って、……まじかよ」 結局は人がものを言わぬ石になる。不思議な話が続くとはいえ真夏にはまだなじめないし、それよりも焦りが生まれる。 「不死石には自我があると言ったろう。それは不死石が元人間だからだよ」 そういえば持ち主が捨てても不死石は戻ってくると聞いた。それは呪いのようだが、自我のある存在とすれば納得だ。 橘はカウンターから出て裏に行き、すぐカウンターへと戻る。そして真夏に小さな箱を取り出した。 「これはもうマッチングしてお客様に渡る不死石なんだけどね、『吸血鬼』の不死石なんだ。だから吸血鬼らしい効果が与えられる」 箱の中には真っ赤な石でゴシックな雰囲気をしたブローチがあった。 透明人間に吸血鬼。透明人間の場合から察して、嫌な予感がする。 「まさかそれ、付けると吸血鬼になったり……」 「いや、焼いたレバーやほうれん草とかの鉄分を積極的に摂るようになるってだけ」 カウンターに倒れ込みそうなほどに真夏は脱力した。吸血鬼という名にそぐわないくらいに平和だ。 「これを求めているのは拒食症気味の娘さんを持つ親御さんのでね、これを付ければ娘さんの拒食症は解決する。人間が必要として、不死石もそういう人に自分の能力を役立ててもらいたいからマッチング成立したんだよ」 「はぁ。不思議っちゃ不思議だな」 「でも、この石は元々吸血鬼という怪異だったんだよね。そっちは血を吸ってたよ。猪や熊の血とかだけど」 「は?」 「怪異が石になるんだ。その怪異は人間がなる。さっき真夏君が石になると言ったけど、その前に怪異になっちゃうんだよね」 人間が怪異になり、怪異が不死石になる。そう橘は穏やかに言うが、真夏にとっては全身が凍りつくような内容だった。そこを出されたコーヒーカップに触れることで冷静になる。その温かさはいつもと変わりない。人間であるからこそわかる温度だ。 「そもそも吸血鬼といった怪異がなんでできるかと言うと、願いや恐れといった大衆の思念が一人の人間に向かうせいなんだよ。聞いたことない? 吸血鬼が殺人鬼が元だという説」 「あ、あぁ……」 「僕らは殺人のニュースを聞いたら思う。『こんなひどいことをする奴が自分と同じ人間なはずがない』って。もしくは吸血鬼の創作を見て、『面白い』と思った事もあるだろう。大衆の思念っていうのはそういうこと」 「思うだけで人間が吸血鬼になるっていうのかよ」 「それだけ多くの人間が同じ思いをする事は強いという事だよ。で、この石は元吸血鬼で、元人間だった。戦国時代のちょっと有名な武将だったよ」
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