怪異集まる宝石喫茶

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真夏は赤いブローチと橘の顔を交互に見た。遥か遠く、歴史に関わる壮大な話のようだ。 「その武将はばったばったと敵を倒した英雄だ。でも戦が終わってしまえば英雄は残虐な人間扱いになることもある。やがて『人を攫っては血肉をすする』なんて噂を立てられて怪異化したってわけ。そんな自分に困惑して石になる事を選んだんだよ」 「……石って自分でなれるもんなの? このブローチ、パケモンとかみたいに怪異を封じたとかでなく?」 パケモンとはモンスターをパッケージに封じて仲間として戦わせるゲームである。もしくは陰陽師が魔物を調伏するイメージを真夏は持っていた。なのに自分から石になるという。 「だって怪異という望まぬ自分になるかもしれないし、怪異は不老不死になってしまうから」 「不老不死にもなんの?」 「あぁ、怪異って石だからね。不老不死というよりは石の特徴として長期保存可というのが正しい。だから最後は石になる。この世界で一番長く残るものと言えば石。ディスク紙木簡竹簡より石版が一番長く保てる。ただ、不老不死って意外に頭がボケちゃうんだよね。脳が容量限界だから。だから石になってスリープや再起動をしなきゃいけないというわけだね」 真夏は本人の望まぬ形で吸血鬼になってしまった武将の事を思った。彼が戦ったのは忠義や恩賞のためであって、吸血鬼のような生き方は望まない。『血肉をすする』なんて噂が現実になっては死にたくなる。しかし石だからそう簡単には死なない。だから不死石となる。 それにしても橘はペラペラと語る。まるで友人を見てきたかのような語り口だった。 「その石になるスリープ期間を人間に利用してもらって、人間には石を大事にしてもらうというのがこの喫茶なんだ。やっぱり石だから人間に愛でられるのって嬉しいからね。力もセーブできていいように作用するし」 「……もしかしてあんたも怪異だったりする?」 真夏はコーヒーを飲むと頭が冴えて、浮かんだ可能性を橘にぶつけた。 怪異は人の姿でありながら、思念を元になんらかの能力を得る。そして不老不死。得体のしれない雰囲気のある橘はそれが当てはまる。 橘は教師のように答えた。 「よく気付いたね。伏せていたのは君がいっぱいいっぱいならないためだったんだけど」 「ゲームとかわりと好きだからな。それよかどういう怪異?」 「それはまたややこしいから内緒。でもとりあえず長生きはしているとだけ言っておくよ」 確かにいっぱいいっぱいになる話だ。なにより話が脱線している。 ここで橘は本題を戻すため、ブローチを箱にしまい仕切り直す。
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