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「ゲーム好きな真夏君は、これだけ聞けば自分がどういう状況かわかったかな。君は大勢の思念により怪異になりかけてモテの能力を手に入れた。多分今のモテ具合なら5割くらいは怪異化しているんじゃないかな」
『モテの怪異』になりかけている。それが真夏の今の状況だった。
恐れてはいたが、完全に怪異になったわけではないらしい。これでまだ本調子ではない。こんな状態でも真珠と橘はまったく真夏に惹かれてはいない。真珠は意外に面倒見がいいし橘は優しいが、恋愛感情ではないだろう。逆にストーカー連中だって暇なときだけ追い回すだけという状態だ。
「空っぽな人程君を好きになりやすいようになっているんだよ。噂に惑わされやすい人っていうかな。性別年齢立場も関係無しで。だからやるべきことのない放課後だけ追い回す」
「そう聞かされるとそれっぽいな……」
心が空っぽ。だから皆追いかけて愛を叫ぶだけ。その愛の言葉でさえ薄っぺらい。空っぽの心を怪異によりむりやり動かされているためだ。真夏が無事登校できて下校に苦労するのは空っぽな者たちに放課後他にやるべきことがないからだ。逆に真珠のようにやるべきことがある者は真夏にまったく惹かれない。
「完全に怪異になったら、その空っぽな人達が学校や仕事をやめてでも追い回しに来るよ」
「げっ。勿論それをなんとかする手段はあるんだよな?」
橘は何も言わずにこりと微笑む。そしてそのままの笑みをキープしたまま、何も言わない。
「真夏君は、君が『カラスは白い』って言えば皆そう思ってくれるものだと思う?」
「そんな権力俺にはねぇけど。なに、できないの?」
「大衆の思念とはそう簡単には変わらないものだし、実際真夏君はモテていそうだからね。『真夏はモテない』と噂を流したって誰も信じないと思うよ」
「俺が見るからにモテていそうなばっかりに……」
ある程度情報を得ている人達の意見とはもう固まって変えることは難しい。なにせその意見というのも真実なのだし。新たな嘘をひろめたって誰も信じやしないだろう。
このまま自分は『モテの怪異』となるのだろう。おいかけ回される人生を想像するだけで辛い。いやここは不死石になって、橘に面倒みてもらおうか。どうせ辛い人生ならば、宝石のようなものになり大事にされるのもいいかもしれない。真夏は悲観しかできなくなる。
「大丈夫だよ、真夏君。今回の件で怪異化を止めるのは難しいけど、それだけに不自然な事が多くやりようがある」
「不自然って、どこが?」
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