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「これ、折ったの、松本さん?」 汐田くんが袋から取り出したのは、折り紙の魚だった。 「うん、それね、中にメッセージ書いてある、から……あの、後で読んでもらえたら、嬉しいです」 告白しようかな、とも考えた。でも、私は、やっぱり心底びびり屋で。 だから、手紙を書いた。それを、魚の形に折った。 鶴基準で悪いけれど、鶴よりかほんの少し手間をかけたこの意味が、どうか伝わりますように。読んでもらえますように。 汐田くんが、あっけにとられた顔になった。 あ、これ、多分、はずしたやつ。 そう思った、次の瞬間だった。 汐田くんがぱっと背を翻した。 戻ってきたその手には、折り紙の魚があった。私のとは違って、立体的というか、ちゃんとしたやつ。きれいな橙色は、瑠奈ちゃんの欲しがっていた、プラティと同じ色だった。 はい、と渡される。 「俺、も、ろくなこと書いてないけれど……」 お家にただよう水の匂いのせいだろうか。私の構えた目に見えない網の中に、透明なプラティが、ふわっと飛び込んできたような気がした。 別に、彼氏彼女になったわけじゃない。でも、そんなのはいいんだ。淡くて、儚くて、奇跡みたいだった。 嬉しい。 すごく、嬉しい。 ──でも。 私はまじまじと折り紙の魚を見た。 「中に、メッセージ書いてくれたの?」 「うん」 思わずつっこんでいた。 「なんでよ!」 「え、なんでって、何が?」 「こんなちゃんとしたやつ、勿体なくて開けないじゃん! ていうか、二度と元に戻せないから開けるとかまじで無理だしっ」 きょとんとした汐田くんが、弾けるように笑った。 「あははっ、ごめん、ごめん」 「ごめんじゃないよー! もー!」 「あーっ、もう、おっかしいなぁ。俺さぁ、昔から、肝心なところで、だいたいちょっと外すんだよね」 知ってる、と笑った。 そんな汐田くんを、好きになったから。 汐田くんがスマホを取り出して、言った。 「ネタバレすると、中身、住所なんだ。また遊べたらいいな、って」 私もスマホを取り出す。引っ越しのドタバタの中で、何やってんだろう、と笑いながら住所を交換する。 見えない網の中で、私の透明なプラティが、ぴちぴちと跳ねている。 【おわり】
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