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一応網を入れてみる。
巨大な水槽は横に長く、大胆なレイアウトが売りだった。複雑怪奇な形の流木や、その隙間を縫うようにこんもりと生えた水草、要所要所に置かれた岩などが邪魔をして、全然捕まえられない。
ダメなんだろうなと思いつつ、ちょっとだけ網を動かしてみる。さっと魚たちが網を避けて泳いだ。
「難しそうだね」
声は汐田くんだった。
「レイアウト複雑だし、無理だったら今日中じゃなくてもいいから」
ほっとした瞬間、瑠奈ちゃんの、えー? という顔が目に入った。
「ちょ、ちょっと待ってね」
ごめんね、頑張るからね、ともう一度網を入れてみる。
でも、やっぱり、瑠奈ちゃんのお目当てのプラティを掬うことはできない。
色や模様が違うので、ちゃんとこの子を渡してあげたいのに。
汐田くんがはらはらとした声で言う。
「あんまり、追い回さないほうがいいかも」
ああ、やっぱり、そう見えるよね。
背後から店長の声が聞こえたのは、その時だった。
「せっかくうちの子に会いに来てくれたのに、ごめんね。お迎えするまで、もうちょっと待ってくれるかな?」
私は水槽から網を出した。バトンタッチだ。脚立を降りる。瑠奈ちゃんと、ひげもじゃの店長が視線を合わせて話している。
「もうちょっとって、どのくらい?」
「うーん、三日くらいかなー」
え、と驚いた。
渡そうとした網が空中で行き場を失う。
瑠奈ちゃんも、ええ? と、首を傾げている。
「そんなに?」
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