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「うん。この子がこの手前の角のところで泳いでくれたら、捕まえられるから。三日も待てば、どっかのタイミングでこの辺を泳いでくれるでしょう」 「うちの父は、もうちょっと早く捕まえてる……けど?」 汐田くんが苦笑した。 「ぼくらの家の水槽とは、全然レイアウトが違うでしょう」 うん、うん、と店長が頷いている。 私のアルバイト歴はそう長くない。この水槽からの生体販売に立ち合うのは、今が初めてだ。 私よりアクア歴の長い二人が言うなら、そうなんだろう。 改めて水槽を見る。 まばゆいライトに照らされて、循環する水がきらきらと光っている。豊かな水草の森が涼し気に揺れている。気持ちよさそうに泳ぎ回る、色とりどりの魚たち。 魚にとっても、鑑賞する人にとっても、最高の環境だ。 とはいえ、そこまで難しい水槽に魚を入れて、いざ販売となると三日もかかるなんて。それはそれでどうなんだろう。 私の無言のツッコミにまるで気づかない店長が、そっと水槽の縁に手をかけて、笑った。 「生き物って、思い通りにならないものだ。ぼくらは、思い通りにならない相手と、うまくやっていくんだよ」 あまりに堂々とした態度に、瑠奈ちゃんも納得した。待ってるからね、と水槽に向かって話しかけている。 汐田くんが、ばつの悪そうな顔で切り出した。 「ごめんね、俺がちゃんと説明しとけばよかった」 「ううん! 私もうまくできなくて」 また三日後に、と汐田くんが瑠奈ちゃんと一緒に店を出て行く。 その後姿に、また学校でもね、と心の中で話しかけた。声に出すのは、何だか照れくさくて、できなくて。 すすす、と店長が私の側に寄ってきた。 何か言ってくるのかと思ったら、なにも言わず、ただ、にまにましている。 「何ですか?」 「いやー? 別にぃー?」 「もーっ!」 思い通りにならない相手とやっていくって、こういうことかと思う。
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