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一途な熱 2
「今日からあなたたちは、この部屋を使いなさい」
与えられたのは、寺の本堂から古びた木造の渡り廊下を渡った先。
そこは離れの二間続きの和室だった。
「流、もうあの時みたいに駄々は捏ねないでね」
「当たり前じゃん。俺もう中二。丈と一緒でいいぜ」
「そうなの? なんだか拍子抜けね」
母さんは意外そうに俺の顔を見つめた。
小学生の頃とは、もう違うんだよ。
あの頃は、とにかく兄さんにくっ付いていたかった。
でも今は違う。
……そうだな、少し離れた場所からそっと見る位の距離が丁度いい。
どうしてかというと、あまりにも近いと息苦しくなってしまうからさ。
「流、本当に大丈夫なの?」
隣に立っていた兄さんも意外そうな顔で、俺を見た。
「あぁ、それより兄さんこそ大丈夫か」
「え? 何が」
「いや別に……大丈夫ならいいけどさ」
「流……?」
兄さん、俺……知っているよ。
兄さんを見上げていた頃には気付けなかったことが、兄さんの背丈を越した頃から、いろいろと見えて来たんだ。
兄さん……
本当は怖がりで暗闇が怖いから、部屋の電気を全部消して眠れないんだよな。
雷の音も苦手だ。
平気なフリしていても、鉛筆を持つ手がいつも小さく震えていた。
それから意外と方向音痴なのも知っている。
俺の手を引きながら本当は道に迷っていたこときっとあったよな。
実は早起きも得意じゃない。
それでもいつも俺よりずっと早く起きて、きちんと支度をしていた。
他にもこれから先、もっと見つけられるだろう。
兄さんの弱みに、誰も気が付いていない。
いやそうじゃない。
兄さんが頑張って気が付かれないようにしているんだ。
兄さんは長男らしくしっかりしようと、いつだって頑張っているから。
だから俺は、これからもずっと知らないふりをするつもりだ。
兄さんが望むように、兄さんらしく生きていけるように見守っていく。
俺が守っていくから安心しろよ。
兄さんは俺の大事な人だから。
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