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波の綾 2
お盆の真っ只中、僕は流と二宮に向けて出立した。
流は本当に二人分のお弁当を作ったようで、妙に大荷物だった。
北鎌倉から二宮までの道は、海沿いの道を真っ直ぐ1時間強。
ちょっとしたドライブ気分だった。
窓を開けると海風が心地良く、僕の気分も上々だった。
忙しいお盆の、束の間の休養になりそうだ。
二宮駅の駐車場で車を降りた。
「兄さん、車はここに置いて行くぞ」
「住職の言葉通り、檀家さんの家までは随分狭い道のようだね」
「山道のようだが、その姿で歩けそうか」
「大丈夫だよ。住職が昨年までは通われた道だ。それに上り坂には慣れている」
思えば、僕の人生はいつも急勾配の坂道だった気がする。
振り返ったら転げ落ちてしまうようで、必死に歯を食いしばって歩んで来た。
「その言い方、兄さんらしいよ。だが今は俺がいる。疲れたら休めばいいし、歩けなくなったら、おんぶでも抱っこでもどんと来いだ!」
「りゅ、流!」
弟におんぶされたり抱っこされるのは面目が立たないよ。
そう言えば……僕は夏用の袈裟を着ているが、流は法衣ではく濃紺の作務衣姿だった。
「だからその格好だったのか」
「こっちの方が、いざという時にさっと動けるだろう。俺は重たい袈裟よりも作務衣が性に合っている」
「まぁ確かにそうだけど……いつの間にか髪もこんなに長くなって」
「ワイルドだろ?」
「ワイルド? くすっ、うん、逞しいよ」
そう言いながら弟相手に何を言っているのかと、照れ臭くもなった。
「さぁ行こう、約束の時間が迫っているぞ」
「うん」
山道を慎重に登った。
足下が悪かったが、月影寺の奥庭には似たような場所もある。
急勾配の道、太い根が張った道、どんな道でも流となら歩んでいけそうだ。
やがて公園の傍に、古びた日本家屋が見えてきた。
「あそこだな。兄さん、俺はここで待っている」
「一緒に入らないのか」
「今日は作務衣姿だし正座は苦手だ」
「相変わらずだね。いいかい、どこにも行ってはいけないよ」
「おいおい、俺をいくつだと思って?」
「ふふっ、そうだった。お前があまりに嬉しそうにリュックを背負っているから遠足を思い出してしまったよ」
ニコッと微笑みかけると、流も明るく笑ってくれた。
太陽のような明るい笑顔を浮かべる弟が大好きだと、改めて認識した。
「そうだ、兄さんと内緒話をしようか」
「ん?」
首を傾げると、流が耳元で囁いた。
「今日も持って来たぜ!」
その低く甘い声に、胸が高鳴るのは何故だろう?
「な……何を?」
「お供えの饅頭さ!」
「ふっ、流は変わらないね」
「内緒だぞ?」
「ん……仕方ないなぁ。僕も共犯になろう」
流とまたこんな風に仲良くなれるなんて、本当に喜ばしいことだ。
これから法要だというのに、僕の心は弾んでいた。
「えっと……コホン、では行ってくるよ」
「あぁ、ここで待っている」
「ありがとう」
踵を返して歩き出す。
背後には流がいてくれる。
それだけで、僕は堂々と真っ直ぐに歩ける。
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