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待宵 2
「兄さん、布団が敷けたぞ。さぁ横になって」
「うん」
「おやすみ、兄さん」
「流、おやすみ」
布団に入ると、流が僕を優しい眼差しで見つめてくれた。
だから視線を逸らすことなく、僕も流を見上げてコクンと頷いた。
(今日も無事に終わったね。また一歩僕たちの未来へと前進したことになるんだよ)
(そうだな、つつがなく暮らせて何よりだ)
流と目指す場所は、口に出さなくても分かっている。
流を信じられるから、僕はどんな困難も乗り越えられる。
それほどまでに、流の存在は僕に力を与えてくれる。
その日を迎えるまでは、なるべく波風を立てないようにしたい。
もう嵐のような日々は嫌だ。
彩乃さんとの約束を守るだけで、精一杯なんだ。だからそれ以外は月影寺で平穏無事に穏やかに、淡々と過ごしていきたい。
「じゃあ、また明日な」
流の姿が見えなくなると、すぐに流が恋しくなってしまった。
枕に顔を埋めると、まだ微かに流の匂いがいてくれた。
「流……」
困ったな。流に衣食住を任せるようになってから、流の匂いがしないと落ち着かなくなってしまったよ。それほどまでに僕の中で、流の存在は大きくなっている。
血を分けた兄弟なのに、異性へ抱くような甘い気持ちを抱いていることは、もう認めよう。
その気持ちには名前もついている。
その気持ちに素直についていけば……
いつか……僕は流に抱かれるのか。
そこまで考えて真っ赤になってしまった。
ぼっ、僕は何を考えて――
こんな淫らなことを考えるなんて、どうかしているよ。
もう早く寝てしまおう。
夢の中で……
僕は海を見下ろす広い部屋で、転た寝をしていた。
すると日没と共に、流がやってきた。
「兄さん、いや、翠……もう我慢出来ない。結界はもう揺らがない。だから……今日こそ……もらってもいいか、兄さんの全てを」
意を決したかのように僕の着衣を一気に乱し、逞しい手で上半身をまさぐってきた。
素肌を這い回るのは流の手だから、少しも怖くはない。むしろ気持ち良くて溺れそうだよ。
心臓が期待で飛び跳ねていた。
「翠……可愛いな、こんなに胸をドキドキさせて」
流が僕の心臓の上に手をあてている。
「もっと、させたい」
次に生暖かいものが胸の尖りに触れる。
流が僕の乳輪を口にたっぷりと含んで舐めていた。
(あっ……駄目だ……そんなこと)
「ん? 駄目なのか、もうやめるか」
(え……やめてしまうのか……)
僕はしどろもどろだ。
「いや止まらない。もっとしたい……してもいいか」
こんなに気持ちいいなんて……
流は僕の腰に深く手を回し、腰が浮くほど強く抱きしめた。
上半身が密着すれば流の心臓も高鳴っているのが伝わってきて、嬉しかった。
この先はどうしたらいい?
僕はどんなことでも受けいれるつもりだ。
相手が流だから、全てを委ねられる。
「……今日はここまでな」
(えっ……)
「焦れったいか」
「……焦れったいよ」
そこで流の手が急に消えてしまう。
「待って」
「俺も苦しくなってきた」
「え?」
はっと飛び起きると、僕の下半身に血が集まって硬くなっていた。
それを察して、思わず頭を抱えてしまった。
「参ったな……弟に欲情して……とうとう、こんなになるなんて……」
壁にもたれて天を仰いだ。
今のは淫夢だ。
驚いた、僕の中に、このような淫靡な気持ちがあるなんて。
「……長い道のりになるから……こうやって慰めろと?」
思わず、あてもなく呟いてしまった。
誰にも見せられない僕の秘密だ。
この壁の向こうにいるのは僕の弟。
あの夢は、僕の未来の姿。
****
「ハァハァ……」
寝所に入って、翠の汗と俺の汗の混ざったタオルをスンと嗅いだ途端、スイッチが入っちまった。
自身を慰めるのは虚しくもなるが、こんないいアイテムを手に入れてしまうと、爆発してしまう。
何度か自身の手に欲望を吐き出して、壁にもたれて天を仰いだ。
目はギンギンに冴えていた。
翠……もう夢の中か。
いつかこの手で、翠の全てに触れてもいいか。
そんな日を夢見てもいいか。
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