882人が本棚に入れています
本棚に追加
枯れゆけば 2
暑かった夏も終わり、季節はすっかり秋となっていた。
もう兄さんの首筋に、あの日のような色っぽい汗は流れない。だがその代り秋の澄んだ空気を纏った兄さんが一際凛として見えた。
兄さんには秋が似合うな。
すっきりとした朝日を浴びる美しい横顔に、いつものように見惚れてしまうよ。
あぁ、でももう辿り着いてしまった。
今日もいつも通り、曲がり角で兄さんと別れる。
「じゃあね、流、今日も頑張るんだよ」
「あぁ兄さんもな!」
「うん、ありがとう」
兄さんは俺が校門に向かって歩き出すのを見届けると、すぐに後ろから追いつく達哉さんと肩を並べて行ってしまう。
兄さんと達哉さんは、随分気が合うらしい。
兄さんの人懐っこい優しい笑顔が眩しいぜ。
結局、俺は毎朝、この面白くない光景を見送っている。
見なきゃいいのに、振り返ってしまう。
くそっ! いいよな。
俺も兄さんの隣にあんな風に並び、共に歩いていきたい。
何処までも……
早く高校生になりたい。二歳の差が今は大きすぎる!
「おっはよ! 流っ」
感傷的な気持ちで兄さんの背中を見送っていると、誰かが俺の肩をゴンっと肘で小突いてきた。
「痛てーな!」
見れば転校初日に話しかけられてから、何だかんだとつるんでいる克哉だった。
「またブラコン見せつけちゃってぇ」
「うっせーなっ」
「怒んなって。まぁ、あんなに優しそうな兄さんなら、そうなるのも分かるぜ。それに引き換え俺の兄は酷いんだ。弟を下僕とでも思っているのか横暴だし暴力も振るう!」
「そうなのか」
「そうなんだよ、俺、迫害されてるんだ」
……はたして、本当にそうなのか。
兄さんと歩いている達哉さんは、悔しいけど大人っぽく落ち着いているように見える。横暴で暴力を振るうような人と、清廉潔白な兄さんが親友になるかな?
克也の言っていることを、信じられなかった。
「それって実はお前から仕掛けているんだろ。そんでお前も負けていないんだろう」
「ははっ、必ずやり返す!」
「おいおい、怖い弟だな」
ニヤリと笑う克哉に、どう反応していいのか迷った。
それにしても転校して数日後、克哉の兄が、兄さんといつも一緒にいる達哉さんだと知って驚いたものだ。
世間って意外と狭いよな。
「それより耳寄りな話があるんだ」
「なんだよ? またロクでもない話だろ」
「いや、お前にとっては朗報!」
「なんだ?」
「来週兄貴たちの学校の文化祭があるの知っているか」
「文化祭? ……兄さんからはまだ聞いてないな」
「あれ? オカシイな。まぁいっか。あそこの高校の方は部外者は滅多に入れないんだぜ。でもほら見てみろよ!」
ジャーンっと誇らしげに克哉が目の前にちらつかせたのは、その入場チケットだった。
「モチロン行くだろ?」
「行く!」
当たり前だ!
俺は即答した。ただ、どうして兄さんから直接誘ってもらえないのか不思議だったが、とにかく兄さんの高校生活を、この目で見る絶好のチャンスが到来した。
俺のテンションは朝からグングン上がっていく!
最初のコメントを投稿しよう!