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枯れゆけば 13
「流、りゅーう、いい加減にそろそろ起きないと遅刻するよ」
俺の大好きな翠兄さんの涼しげな声が、遠くから聞こえて来る。
だが……兄さんの華奢な手によってユサユサと肩を揺さぶられても、まだ眠くて眼が開かない。
寝不足だ。昨夜の兄さんの様子がどうしても気になって、なかなか眠れなかった。
なんで昨夜は、珍しく手を繋いできたのか。
翠兄さんと最後に手を繋いで歩いたのは随分前になる。まだ小学生の頃だ。
帰りが遅い兄さんを探しに歩き出すと、すぐに向こうから近づいて来る姿を見つけて、ほっとした。
だが兄さんの表情は暗闇を吸い込んだように疲れていて悲し気だった。それに必死に誤魔化していたが、月光に照らされた頬には涙が辿った跡があった。
昨日一体何があったのか。
まだ中学生の俺を、兄さんは頼ってくれない。
それは分かっているが、それが悔しかった。
早くもっともっと心も身体も大きくなって、兄さんが頼れる男になりたい。
「流……ほら起きて! 一緒に行けなくなるよ」
それは嫌だ! 朝の登校は必ず一緒だ。中学校への曲がり角までは、俺と兄さんだけの貴重な時間なんだ!
「うぅ……分かったよ、今起きるよ」
目を開けると、もう制服を着てきちんと身なりを整えた綺麗な兄の顔が間近にあって、ドキリとした。
「おはよう、流。今日も良く晴れているよ」
昨日のことが嘘のように晴れやかな笑顔を浮かべていた。
「あれっ、丈は?」
「丈ならもうとっくに起きているよ。向こうで本を読んでいるよ」
「ふんっ! あいつは薄情だな」
隣りの布団に目をやると既に綺麗に畳まれていた。二つ下の弟のくせに、年寄りみたいに早起きして朝から読書かよ。それにしても流石に俺も早く仕度しないと遅刻する!
ところが、布団から出ようとした瞬間にひやりとした。
あーヤバイ! またやっちまった。
パジャマの下のパンツが、ぐしょりと濡れている。
「流、さっきから変だよ。もしかして」
俺がなかなか布団から出て来ないのを不審に思ったらしく、その濡れたような黒い瞳でじっと覗き込まれたので、慌てて布団の中で腹を抱えて丸まった。
「なっ、何?」
夢精したこと、臭いでバレたんじゃと焦ったが、天然な兄は見当違いの事を言ってくる。
「もしかして、お腹が痛いのか」
心配そうな声で聞いてきて、挙句の果てに布団越しにお腹を擦られたので、濡れたパンツの中で俺のモノが元気にムクっと起き上がってきてしまい、ますます慌ててしまった。
「もう、もう、触んなよっ! 兄さんはもう先に行ってろよ」
「あ……うん、ごめん。体調が悪くないならいいんだ。じゃあ朝ごはんを食べて待っているよ」
少し寂し気に去っていく兄に罪悪感を抱いた。
兄さんごめんよ。
遠ざかっていく足音を確認してから、そろりと起き上がって、パジャマの中を覗き込むと本当に青臭い気がして、うぉーっと頭を抱えてしまった。
俺って、ほんと最低だ!
そんでも濡れたついでに、この中途半端な熱も出してしまった方がいいと判断した。時計を気にしつつ、押し入れの奥に隠しておいた小さな箱を取り出した。
そこには、褌姿の翠兄さんの写真が入っていた。
これは先日返し損ねた写真だ。写真の中の兄のほっそりとした全裸に近い姿に一気に興奮が高まる。乳首も色も綺麗だな。うぉっ! もうドクンドクンと脈打ってえらいことになっている。少し弄ればすぐで出ちゃいそうだ。
朝から本当に腐ってる。
そう思いながら兄を想像して扱く手は止まらなかった。
「はあっ、うっ……」
朝から、最低な俺。
こんな風に弟に思われる兄さんは可哀想だ。
でも、どうしようもないんだよ!
なんだよ? この感情!
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