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枯れゆけば 14
兄さんを想う溜まった熱を外へと吐き出すのは、何ともいえない快感だった。こんなの一度覚えてしまったら、止められない。
若い若い俺の身体。
熱は吐き出しても、またすぐに溜まってしまう。
「はぁ……はぁ……」
ぐっしょり濡れた手をティッシュで拭いていると、母さんの声が離れにも届いた。
「流っ、いい加減にしなさい!」
くそっ、興ざめだ。
俺は湿ったパンツを履いたまま風呂場に向かい、シャワーをひねった。通りがかった母が、脱衣場で驚いた声をあげるが、お構いなしだ。
「んまっ! 流ってばパジャマのまま水浴びなんてして、あーもう洗濯物が大変じゃない」
母さんはそんな俺を見て絶句していたが、何故そんなことをしているのかは聞いてこなかった。
中二の俺は保健の授業で習った通り、思春期真っ只中。
あの翠兄さんにも、こんな時期があったのか。
翠兄さんの澄ました顔からは、とても想像できない。
****
「間に合って良かったよ」
「まぁな」
あれからなんとか間に合ったが、まとまもに翠兄さんの顔を見ることが出来なかった。
何故なら……俺は、さっき翠兄さんで抜いたばかり。
そんなこと口が裂けても言えない。
「流……」
兄が心配そうな顔で立ち止まり、少し辛そうに目を細めたかと思うと、そのまま華奢な指先が伸びて来て、俺の前髪にそっと触れた。
「やっぱりまだ濡れているよ、髪の毛」
「こんなのすぐに乾く」
「でも驚いたよ。遅刻しそうなのに行水するなんて」
「ははっ行水か……」
確かにそうだな。
確かに俺は熱を帯びた身体と心を冷やしたかった。
あと……証拠隠滅もしたかった。
「流……あのね、もしかして何か悩みがあるの? それって兄さんにも言えないこと?」
「……っ……別に……なっ、何も」
大ありだよ!
翠兄さんに対して性が目覚めてしまったんだよ!
なんて、言えるはずもない。
「そうだ、今度一緒に滝行の体験をしに行かない?」
「滝行ってどんなことするんだ?」
「僕もしたことないから……でも父さんの知り合いの八王子の方のお寺でね、滝行指導をしてくれるそうだよ」
「へぇ」
まぁ兄さんと一緒に出掛けられるのならどこまでも付いて行く。
「滝行をすると心身がリフレッシュされ集中力がつくらしいよ。自分を変えようと思うのなら滝に打たれるのが良いらしいので、一度やってみたい」
ふぅん……二人で滝に打たれる姿を想像した。
水が滴る兄さんはさぞかし色っぽいだろうなぁと思うと喉が鳴る。
自分を変えるか……
容赦なく打ち付ける圧倒的な水量をこの身で受け止めた時、これまでの俺ととこれからの俺、何か変わるのか。
まぁ俺が兄を想う気持ちだけは変わりそうもないが、毎朝これじゃたまったもんじゃないから、少しは制御出来るようになりたい。
「そんなこと言うなんて珍しいな。兄さん、何か変えたいことがあるのか」
「えっ……うん、そうだな。僕も流みたいに男らしくなりたいよ」
「へっ、なんで俺?」
「流は父さん似で背も高くて男らしくていいな。僕も少しでも近づきたい」
兄さんは自分の薄い身体を見下ろして、しみじみと言い放った。
いやいや、それは困る。
兄さんはそのままがいい。
綺麗で涼し気で、透明感があるのが兄さんだ。
俺みたいにゴツゴツは嫌だ。
「なぁ、行ってみようよ。そうだ文化祭が終わったら休みがあるから、どうかな?」
「ん……そうだな。しょうがねーな。兄さんが行きたいっていうなら付き合ってやるよ」
「本当? うれしいよ。ありがとう!」
明るく可愛い笑顔だった。
二歳年上の兄は、いつも綺麗で可愛くて最高だ。
兄さんは兄さんのままで……
翠は翠のままでいて欲しい。
翠……
心の中でそう呼んでみた。
途端に胸が高鳴った。
甘酸っぱい――
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