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届かない距離 9
前置き
4000スターありがとうございます。
本日10スター特典追加しました。『翠と流のキャラ設定絵』です。
ほしふるほたるさんに依頼して二人を素敵に描いていただいたので、ぜひご覧下さい。
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流の手をふと見ると、甲の部分に打撲の跡とかすり傷があった。
これ……もしかして昨夜の?
それとも学校で何かあったのか。
頬を撫でていた手で、流の拳にそっと触れてみた。
すると流が目を覚ましてしまったので、さっと引っ込めた。
「あっ、兄さん起きたのか。熱はどうだ?」
額にあてられた手の大きさに、少し驚いてしまった。
僕の弟は、一体いつの間にこんなに逞しく成長したのか。
「うん……だいぶ下がった気がするよ」
昨日より身体が楽になった気がしていた。
「いや……まだ結構あるみたいだ」
そう言いながら硬く絞ったタオルを額にのせてくれた。
ひんやりと、冷たくて気持ちいい。
気持ちいいのは流の手のひらなのか、冷たいタオルなのか、境界が分からない。
「流、その手……どうした?」
「あっ」
流は決まり悪そうな顔をした。
「まさか」
まさか、学校で暴力をふるってしまったのか。
克哉くんを、流が殴りたい気持ちも痛い程分かるが。
僕が言わんとすることを察したのか、流がきまり悪そうに頭をかいた。
「してねーよ! すると兄さんが悲しむだけだろ、だから壁を殴っただけさ」
「壁? もう……馬鹿だな。こんなに傷つけて」
そっと血が滲む手の甲を擦ってやった。
結局、こうやって僕は流に触れるのが好きなんだ。
僕のために、僕のことだけを流が考えてくれるのが嬉しいのだ。
まだいいよな?
まだ僕だけの弟だ。
そんな気持ちは言えるはずもなく、心の奥底にしまうだった。
「兄さん、もう少し寝ていた方がいいぞ」
「うん」
****
インフルエンザにかかった僕は、結局本調子に戻るまで一週間もかかってしまった。京都の大学は受験出来なかったが、それでも第二志望の本命の大学の受験日には何とか間に合った。
「流、おはよう。熱がまだ下がらないんだって」
「あーあ、まさかうつるなんてありえねぇ。格好悪いぜ」
「……ごめん……僕のせいだ」
「いいんだよ。兄さんからもらったのなら」
「とにかく、今日はいい子にしているんだよ」
「おい! 子供扱いすんなって」
「その位元気があれば大丈夫そうだね。よかった。ゆっくり休んで」
「兄さん、頑張れよ!」
「ありがとう。行ってくるよ」
流の方が、僕の復帰と入れ違いで熱を出してしまった。
つまり時間差で僕のインフルエンザがうつってしまったのだ。
寒い雪の日に医者を呼びに行ってくれたり、克哉くんとの騒ぎできっと精神的に疲れたのだろう。
家族に見送られ、寺の山門から道路へ続く階段を一歩一歩慎重に下りた。
今日は冷え込んでおり数日前に降った雪がまだ残っているから、気をつけないと。
それでも、もうすぐ三月だ。
少しずつ春の足音が聞こえて来る。
春になれば、この鬱々とした気持ちも少しは晴れるだろうか。
流が元気になったら、一緒に出掛けたい。
インフルエンザをうつしてしまったお詫びに、月下庵茶屋に連れて行ってあげたいな。
流はよく食べるから、お小遣い沢山持っていかないとな。
流のことを考えると、僕の気持ちは上昇していく。
流は僕の力の源だ。
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