ヒーローに恋した脇役

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 コンクールの結果は、銀賞だった。高瀬くんは悔しがったけど、みんなの歓声や坂上先輩の嬉しそうな顔を見て満足したようだった。  いつもの音楽室に楽器を戻して、いつも通りに解散して、いつも通りに帰路につく。明日はミーティングをして大掃除して、明後日からは夏休みだ。  私にはまだ、どこか現実味がなかった。  美川さんと二人きりになった帰り道を、夕焼けが照らしていた。 「終わったね」 「終わった」 「一瞬過ぎて、七分もあったなんて、嘘みたい」 「そう」 「終わったなんて、嘘みたい」 「ふうん」 「今日、来てくれてありがとう」 「べつに」 「おかげで銀賞取れたよ」  直前にあんなことがあって、大切なポジションである美川さんが来なくなってしまうのではないかと坂上先輩は心配していたらしい。でも来てくれた。来てくれなかったら、きっと今年も銅賞だった。  吹奏楽って、ちっとも楽しいことばかりじゃない。辛くて悔しくて、でもたまにどうしようもなく心地良い。きっと私は中学で辞めるだろう。それでもこうして過ごした一日一日は一生私に刻まれたままだ。  ぼんやりと歩いているうちに、そっけない相づちが聞こえなくなっていた。  はっとして辺りを見回すと、ついさっき前を通り過ぎた横断歩道を渡った先に、美川さんはいた。トランペットのケースを大事そうに抱えて、少し笑ってこっちを見ている。  点滅する青信号の下で美川さんの唇が小さく動いた。私は思わず、目を離せなくなる。  赤になって、行き交う車が彼女の姿を隠す。次に信号が青になった時には、彼女はもういなかった。 「聞こえないけど、私だってわかるよ、なんとなく」  きらい。美川さんの唇は確かに、そう紡いでいた。
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