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「ごめんなさい。実は私、棚橋さんの事疑っちゃったんだ」
「え?」
「実は棚橋さんは犯人の一味で、計画的に社長と一緒においてけぼりになったんじゃないかって」
「えー酷いなあ。そんな人間に見えた?」
「ううん、全然! 優しくて頼りがいのある人だなぁって……」
「ありがとう……実は……僕も謝らなきゃいけないんだ」
「え?」
「このおいてけぼり事件……僕のせいなんだ」
「ええー! じゃあやっぱり犯人の一味!?」
思わず座席から立ち上がった。
「違う違う。そうじゃないから落ち着いて」
棚橋さんが私の手を引っ張って座らせた。何気に掴まれた手が熱い。
「入社式の時の事、覚えてる?」
「え?」
入社式は新入社員が会議室に集められ、社長から1人1人辞令を手渡される。その時これからの抱負を皆の前で述べる事になっていた。緊張していた私は全身硬直し上手く歩けない状態だった。いや、今でもあの時の事は覚えていない。
「あの時村瀬さんがあんまり緊張してたから、”人って字を3つ書いて舐めれば緊張は治まるよ”って僕は言って、僕は自分の手のひらに人を3つ書いて見せたんだ。そうしたら……」
「そうしたら?」
「村瀬さんは僕の手のひらをいきなり掴んで、舐めたんだ」
「え! 覚えてない!」
私そんな恥ずかしい事したの!?
「あれ以来、僕の目はずっと村瀬さんを追いかけてた。そんな僕のために同僚たちが今回のおいてけぼり作戦を考えてくれたんだ……」
私と棚橋さんを2人っきりにして仲良くさせる作戦。上手く乗せられてしまった。ミッション・コンプリートーー。
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