それは3人から始まった

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「だいたいの場所とか分かりますか?」 「たくさんあり過ぎて覚えてないんだ。そもそもトイレは何処だ?」  このパーキングはお土産物屋やレストランがある。広くて迷子になりそうだ。トイレもパーキングの両端2ヶ所にある。お年を召した社長には分かりづらいだろう。 「じゃあ僕があっちのトイレ見てきます。村瀬さんはあっちのトイレをお願いします」 「はい! って、私男子トイレには入れませんよ」 「そっか……じゃあ、僕が両方見てきます……!」  棚橋さんは走った。タバコを吸った後に全力疾走はキツいだろうに。私は同情しつつ棚橋さんを見送った。 「いやあ、悪い事をしたなあ。あの男の名前は何ていうんだ? 後でお礼をしなきゃなあ」 「棚橋さんです」 「棚橋……忘れるといけないからメモしておこう」  社長はセカンドバッグからメモ帳を取り出し広げた。そして胸ポケットから眼鏡を出して掛けた。 「社長、その眼鏡……!」 「ん? あ、あった」  その数分後、棚橋さんは息を切らしながら戻ってきた。 「全部の個室を見たんですが……ハァ……ありませんでした……ハァ。次は向こうのトイレを……あれ?」  物凄くバツの悪そうな顔の社長。手帳にはしっかりと”営業部 棚橋”と書いてあった。もしかしたら今度のボーナスは多く貰えるかもよ、棚橋さん。  そうして私たちは足腰の弱い社長の速度に合わせてゆっくりとバスへと向かった。大分時間は過ぎているが、さすがに社長を置いていくわけはないだろう。 「……バスがいない!」  まさかのおいてけぼりだった。
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