それは3人から始まった

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 高速バス乗り場から一般道に出るには階段を下りなければならなかった。とにかく社長がゆっくりで……。急かすわけにもいかず、私と棚橋さんが両脇を抱え1段ずつ下りた。下りながら棚橋さんは近くのタクシー会社を検索し電話をかけていた。 「私を置いていくなんて酷い奴らだ。お陰でこんな階段を下りるはめになってしまった」  社長はご立腹だ。何と言っていいか分からず私も棚橋さんも黙り込んでしまった。なんとなく雰囲気が悪い。到着したタクシーに乗り込む際、社長と話をしたくなかったので前の席を勧めると、 「車の上座というものを知らないのか!」  尚更機嫌を損ねてしまった。棚橋さんは道案内をするからと前の座席に慌てて乗った。逃げたな、と忌々しく思いながら社長と2人後部座席に乗った。 「君たちは付き合っているのか? だったら悪い事したかな?」  タクシーが走り始め、しばらくしてから社長がボソッと聞いてきた。 「違います。顔は知ってますが話をするのも初めて同士です」 「それにしては親しそうだし息もピッタリだ」 「え! そうですか?」 「私は社内恋愛禁止だとか固いことは言わないよ。周りの迷惑にならないなら自由にしなさい」 「社長は話が分かるんですね」 「いや、実は私も妻とは社内恋愛でね……」  話してみると気さくな社長だった。社内では気難しそうな顔をしていて近寄り難い印象だが、普通のお爺ちゃんだ。 「えー、どうやって仲良くなったんですか? 告白はどっちからですか?」  社長と恋バナに花を咲かせているとタクシーはドライブインに着いた。みんなで昼食を食べる予定だったドライブインだ。勿論もうバスはいない。 「とりあえず降りましょう。僕たちも食事をしなきゃ」  そう言われてお腹が空いている事に気が付いた。バスだったらお菓子やジュースがもらえたのに。ちょっと損をした気分だ。パーキングでおやつを買ってくれば良かったと今更ながら後悔した。タクシー代を払うためお金を出そうとしたら「社員に出させるわけにはいかん」と社長がカードで払ってくれた。これはラッキー。さすが社長。 「僕たちの分は取っておいてもらうように頼んであります。食べましょう」  それは有り難い。昼食は旅行代金の中に入っている。ここで食事代を使ったら二重に払う事になってしまう。棚橋さんグッジョブ。
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