それは3人から始まった

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「この辺の名物のひつまぶしです」  運ばれて来たのはウナギの乗ったひつまぶし。ドライブインの入口で確認済みだ。ひつまぶしは3000円。絶対自分じゃ頼まない。取っておいてくれてありがとう……涙。 「美味しいですね」 「めちゃくちゃ美味しいです! 名物に美味いものなしっていうけど、これはめちゃくちゃ美味しい!」 「ほお、若いのにそんな言葉知ってるんだな」 「お婆ちゃんが良く言ってたんです。あ、社長。お出汁掛けましょうか」 「ありがとう」 「あ、社長。お茶のおかわり貰ってきますね」 「おお、ありがとう」  社員旅行というよりも年を取った父親を旅行に連れてきてあげた親孝行な息子夫婦といった感じだ。みんなでワイワイ賑やかに旅をする予定だったがすっかり予定が狂った。  でもこれはこれで楽しかった。まさか社長と話しができるとは思わなかった。怖そうだと思ってたけど話すと楽しかった。そして棚橋さん。結構頼りになる人なんだ。私1人だったらどうしていいのか分からなかった。タクシーなんて知らない場所でどうやって呼ぶのか知らない。棚橋さんがいてくれて良かった。 「じゃあそろそろ出発しましょう」 「はい、幹事さん」 「え、僕幹事じゃないですよ」 「3人旅の幹事さんですよ」 「え、あはは」  他の社員たちは今頃豪商の館を見物中だろう。見物が終わったら宿へと向かう。食後私たちは直接宿に向かう。そうしたら同じ頃に宿で合流できそうだ。温泉にもゆっくり入れそうだし、宴会にも余裕で参加できるはずだ。 「宿までは路線バスで行きましょう。宿のある温泉街行きのバスなのでバッチリですよ」 「乗り換えないなら安心ですね」 「ですね……でも……食後ですね」 「……ですね」  以心伝心。私と棚橋さんは見つめ合うだけで通じ合った。食後というキーワード。喫煙者なら今喫煙への欲求が最高潮に達しているのだ。
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