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第1章
今日も残業して、ネオンの煌めく寒い季節に、私は口元までマフラーを巻き付け、コートのポケットに手を入れながら歩いていた。
クリスマス。
そんな季節は、独り身をさらに孤独へと誘うんだ。
素直に家に帰ればいいのに、家で自炊する気力は今の私にはない。
主任という立場でみんなをまとめる、世間ではキャリアウーマンって言ってもらえるけれど、それは、嬉しいのは初めだけで、今はその言葉の重圧で心まで潰れかけている。
今日の会社でも、若いといっても20代後半の後輩、安井芽衣が、大いに客先でやらかしてしまった。
彼女は普段仕事をそつなくこなしてくれるし、愛嬌もある。だから、プライベートの話も聞いてなくてもお昼休みにわざわざ話に来たりする。
「若山さん、聞いてくださいよー」
しかし、今日の芽衣はいつもとテンションが違った。
普段なら、明るく出来る彼氏の自慢を惚気と共に話してくるのに、どんよりとした、不幸な私の話を聞いて、共感してって、オーラがぷんぷんと漂っていた。
「山田さん、どうしたの?」
流石に聞かないわけにはいかず、流れ作業のようにそんな言葉を口にする。
「私の彼、他の女にまで優しくするから、その女がその気になって、連絡してきたんです」
意外とヘビーな内容に、流石の私も、周りで聞こえてしまった同僚も気まずそうに芽衣に目を向けてすぐに逸らした。
しかし、彼らの耳も目線は外しても耳だけは傾けているに違いない。
私は少し小声で芽衣の話を聞き直す。
「どうして?凄く愛されてて尽くしてくれる彼だって言ってたじゃない」
「その優しさ、最近、会ってる時は確かに幸せってなるけど、普段の連絡取り合ってる時に全然優しくなくて、私のことちょっと否定気味になってきてて…」
まあ、わからんでもない。
きっと、芽衣は男からしたら重いと思われる分類だろう。
メンヘラ気質だってある。
一緒にいたら疲れそうだ。
「怪しいなって思い始めてたらやっぱりって感じで…その女から連絡来た時も、気まずそうにとか、悪びれることなくて、
『芽衣より彼女は大変なんだよ、一人で心細い人に耳を傾けることも芽衣はダメって言うんだね』
って、言ってくるんですよ?しかも、その女から言い寄ってきたとかじゃなくて、彼から話を聞いて、女がその気になって…」
芽衣は話しながら泣き始めた。
ここが会社で、今はただの昼休みということも忘れているのかもしれない。
しかし、その男も問題ありそうだ。
自分本位というか、皆、そういうところはあるが、なんだろう。
違和感を感じる。
「思わせぶりな男の人って、よくいるものよ。浮気する男なんてやめとけば?」
「彼は浮気男なんかじゃないです!みんなに優しくしちゃうから、勘違いされちゃうだけです」
芽衣は私の言葉にムキになって訂正する。
その声でまた、注目を浴びてしまう。
「じゃあ、山田さんはどうしたいの?」
私の問いに、芽衣は少し黙り込み、小声で言葉を紡いでいく。
「また、あの優しい彼に戻ってほしい。私が甘え過ぎちゃったのがダメだったのかな…でも、彼以外考えられないんです。彼以外の完璧な人もう、現れない…」
その言葉はとても重くて、同時にその彼に、人を虜にさせてしまうテクニックを教えてほしいとすら思ってしまった。
婚活中、35歳。
彼氏なし歴5年。
出歩いてるのに、上手くいく人と出会えなくて、悩んでいる。
その人を虜にするテクニックがあれば、私も気になった人に振り向いて、真っ直ぐ愛されて、幸せになるのかな。
そんなことを考えていたら、昼休みが終わり、その後の芽衣の仕事ぶりはとんでもなく心ここに在らずで、いろんな処理に追われたのだった。
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