第1章

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そういえば、今日はクリスマス。 芽衣は彼氏と過ごせたのだろうか? そんなどうでもいいと、自分でも思うことが脳裏によぎった。 やめよう。 人の心配してる余裕はない。今日はダイニングバーで軽く食べてお酒をたのしもう。 しかし… 「申し訳ございません、本日ご予約で満席となります」 「そうですか、ありがとうございます」 断られたのに、何故かお礼を言って去っていく私。 クリスマスで空いてるレストランもBARもないのだと、世の中の浮かれ度を痛感した。 今日はど平日のクリスマスだというのに、イベントごとにみんな抜かりない。 そして、ここでも独り身は弾かれてしまうんだ。 すれ違う人、普段からこんなにカップル溢れてたっけ?この日のために恋人を作る人もいるくらいだ。男女二人でいるからって、それが幸せなパートナーだとは限らない。 そんな捻くれた思考で自分を慰めながら、開店したばかりで、まだ客が来ていないであろうBARへと向かった。 「いらっしゃいませ」 薄暗い店内に、カウンターに一人の男性がマスターと親しげに話していた。 あとは、誰もいない。 私の読みは合っていた。BARは二次会でよく使われるから一時間ちょっとは気兼ねなく過ごせるはずだ。 私は男の人と三席分ほどあけて、カウンターに座った。 マスターが、いい香りのする温かいおしぼりを私にくれる。 「何にしましょうか?」 ここは、クリスマスっぽいとか言った方が女の子の可愛さがでていいのだろうけど、そんな気分にもならない。 手っ取り早く酔って、寂しさ紛らわして寝よう。 「マンハッタンで」 強いカクテルは、刺激と共に私の心も麻痺させてくれるから好きだ。 「結構強いカクテルが好きですか?」 突然三つ席を離しているのにカウンターに座る男性に話しかけられた。 突然の事で、動揺しながら、私は視線を男性に向け、初めて顔をまじまじと見た。 同年代といったところだろう。 昔、部活でキャプテンやってましたと言わんばかりの、自信に満ちた表情。 モテてきてるであろう彼が、こんな聖なる夜にいるなんて、違和感を感じる。 「ええ、カクテルは好きです」 質問の答えと少し違うかもしれないが、動揺している私にはそれくらいしか言葉が浮かばない。 「いいですね!私も強めのカクテルが好きで、なかなか女性だと軽めのというか、甘い系のカクテルしか知らない女性が多いとお見受けしてたので」 私はてっきり、いろんな女性と飲みに来ている自分を自慢しているのかと思っていた。 しかし、それをすぐに払拭するようにマスターが彼がどんな人物か紹介してくれた。 「安元さんは、うちのコンサルタントしてくれてる人なんですよ」 「コンサルタント…」 私は職業を復唱する。 それで、お客さんの嗜好とかを調べているのだろうか? それを説明されると、男性に対する見方も変わる。 そして、彼はクラッチバッグから名刺入れを取り出して、私の一つ開けた席に座った。 「コンサルタントの安元瑛二です」 私も「ありがとうございます」といいながら受け取り、バッグから私も名刺を取り出し瑛二に渡した。 それから、瑛二の仕事のことやわたしの仕事に関してのこと、話しやすくて、気づいたら、二時間もBARで話していることに気づき、流石に明日の仕事を思い出してしまい、帰りを切り出した。 「じゃあ、明日も仕事なので、安元さんと話せて楽しかったです。マスター、チェックで」 そういうと、安元はすかさず、 「マスター、今日は僕に彼女の分つけといてください」 「そんな、悪いです。初めて会ったばかりで…」 「いいんですよ。楽しいひと時をありがとうございました。僕からのクリスマスプレゼントといったらうけとってくれますか?」 クリスマスプレゼント その言葉に嬉しさが込み上げて、照れくさい気持ちになりながら頷いた。 クリスマスに出会った、素敵な男性。 これは神様からのプレゼントかな。 そう思いながら、私は開かれた気持ちで店を後にした。
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