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(三)戸田氏孟の墓参り
※このエピソードページは不快な表現を含みます。
戸田氏孟の命日が来て、奉行所の者たちが入れ替わりで墓参りをしていた。
「七蔵、どうしてみな、袴を穿いておらん?」
「ああ、行けばわかります。松山さまも、袴ははかずに裾をからげて、身軽で行かれたほうがよろしいですよ。」
「前任者の墓参りだからな。礼装でないと。」
「さすがです。」
七蔵の嫌味に、惣十郎がぼそっと付け加える。
「殺したい男だが、もう死んでるしな。」
惣十郎が七蔵以下、数名を連れて戸田の墓の近くに来た…すごい異臭がする。肥溜めのような、掃除のされていない便所のような…
「ひどい匂いだな。」
「はい…」
原因は戸田の墓だった。
周囲に数限りなく、立小便のあとがある。大便をしている者もいる。墓のまわりが濡れているのも、みな小便だ。
ーこれだから、みな裾をあげて墓参りするのか。
「…なんだ、これは…?」
「長崎の町人どもの、おやさしいお奉行さまへの、餞別です。」
七蔵が答える。長崎ほど治めるのが難しい土地はない。これがすべてを語る。
「やめさせられないのか?」
「ずっと見張りを立てますか?」
「…いや。いい。」
ーこんなやつの墓に、警備の金など使えるか。
惣十郎は神妙な顔をして手をあわせる。七蔵たちもならって手をあわせる。
「御役目、ご苦労であられました…帰るか。」
惣十郎はさっさと元の道を戻って行く。が、途中で立ち止まった。
「おい、七蔵。」
惣十郎がとつぜん袴を脱ぎ、七蔵に渡す。
「先に帰っていてくれ。」
着流し姿になった惣十郎はひとり、戸田の墓の前に立つ。ぱっと着物の裾をからげて、ぐいと褌の脇から手をつっこみ、いちもつを取り出した。
ーさっきのは、役人としての挨拶。そしてこっちは、男としての挨拶だ。お蝶の敵め、受け取れ。
惣十郎は戸田の墓にじゃああああとたっぷり立ち小便をすると、ふん、ざまぁみろ、と言って立ち去った。
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