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──どれくらい祈っただろうか。
気付くと、除夜の鐘も聞こえなくなっている。もう、年が明けたのか。
「ああ、くそ……」
ぼくは何をやっているのやら。普通に考えて、馬鹿げているにも程があるだろうに。
そんな、自己嫌悪か。あるいは自己正当化か。こんな行いに意味は無いと言い聞かせるように、悪態を落とし。
踵を返す。藪を抜ける。心にしこりは残ったまま。
そのまま、駐車場を抜けようとして。
──ぐしゃり。
何かが、目の前に降ってきた。
重くて、何故か柔らかいもの。そうと分かるもの。
「ぇ、え?」
ぼくは息を飲む。どうしてか、何が落ちてきたのか分かってしまったから。より正確には、「誰」、と言うべきで。
「あ、ぁ、あ、なん、で……?」
黒く、長い髪が印象的だった。
猫背に丸まった背中はひしゃげ。
すっきりと通ったまなじりが、二度と戻らない光りを思わせて。
──知っている。
知っている。
この女の子を、ぼくは知っている。
「どう、して……? 花宮さん……」
ぼくは独り言ちて、そのまま身体の力が抜けていく。
意識は、倒れきる前に失われていた。
──そこで、目が覚めた。
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