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00-02
「──月島、くん?」
問われて、息を飲む。昼日中、4限目の教室、前方から配られるプリント。
白昼夢を見ていたようだった。いやに生々しくて、気持ちの悪い汗が出てる。
それだけなら良い。
「……どうかした? なにか、顔色悪いよ。月島、真尋くん」
目の前、自分の席のひとつ黒板側。長い黒髪と、切り揃えた前髪から覗く、艶やかなブラウンの瞳を。
ぼくは、はっきりと憶えている。
「……いや、なんでも無いよ。花宮さん……」
──花宮 有。
今しがた、目の前で墜落していた、彼女の名前。
ぼくは自分自身を取り繕って、プリントを受け取る。作業として、すぐさま後ろに流しながら、自分の違和感について考えた。
白昼夢にしては生々しい。想像にしてはとことんリアル。
肌に刺さった、冬の冷気すらすぐに思い出せてしまうほど。鳥肌の立つ頬がその証明だ。
けれど、今は11月の初め。残暑もそこそこ、秋の空気を運んでくるけど、冬と呼ぶには程遠い。
──なんだったんだ?
ぼくは深く突き刺さった疑問を振り払い、配られたプリントに目をやる。昨日から告知されていた数学の小テストだ。
先生が気合を入れて作ったらしいことが一目で分かる。参った、数学は苦手なんだけれど。
「…………あれ?」
苦手、なんだけれど。
何故か問題の答えが、考えずとも分かってしまった。
まるで“もう何度も解いてきた”みたいに。
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