0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
帰り道
夕方
自転車で仕事から帰る道。
当たる風は柔らかく、道路沿いの外は
広い海が広がっている。
地平線の先まで海で広がってる景色を見ながら、道路沿いを自転車で走る。
ただの帰り道なのに、どこか贅沢に感じている。
波の音、磯の香り、やわらかい風、沈みかけの太陽。
それを考えるというよりも、感じることのほうが正しい。
体で感じる。考えさえも外に溶け込んでる感覚にある。
すべてが外にあって、自分は空っぽのように自転車で漕いでいるだけという感覚と
それが自然と一緒に流れているような感覚。
車が一台も走らない道を、自転車が一台だけ我が家へと帰る。
見つからない生きている答えが今ここにあって、それがただ過ぎ去っていく。
海はやがて色を変えて、夕焼けに混ざり赤みが差す。
それもただあるだけで自分には到底作ることのできない風景なのだと感じる。
当たり前が当たり前じゃなく、そこにあると感じると、そこには当たり前に自分がその風景を作っていたんだと直感した。
考えで作っていたことの自分の風景がそこに広がっている。
そんなものはどこにもなかった。
ただ自分が作っていた。
それを知った瞬間、とめどなく涙が溢れ出した。
個人の見解の愚かさと、すべてを受け入れている受容の愛がそこにはあった。
嬉しさと悲しさと愚かさが同時に体に押し寄せてきた。
誰も通らない自転車が一台。自分は自転車を止めて、止まらない涙をどうにか止めようと防波堤に腰を下ろす。
落ち着いてきたときには、空は真っ暗になっていた。
波の音だけが聞こえる。
自分は自転車のライトを点けてゆっくりと帰った。
帰りながらふと思った。
海の本当の名前ってなんだろう?
最初のコメントを投稿しよう!