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─5─
真奈美の夢を見てから、三日が経とうとしていた。あれから毎日、真奈美が夢に出てくるようになり、俺は眠れぬ日々が続いている。
寝不足が続き、体調もすぐれず、ベッドの中で過ごす時間が増えていた。
「次の診察で、相談しよう。せっかく助かった命、このままでは無駄になってしまう」
三日もまともに寝ていないと、さすがに限界だった。気絶をするように、いつの間にか眠っていた。
「夏希くん、ずっと一緒だよ」
真奈美が目の前でそう呟き、それと同時に俺は目を開けた。
「──またか」
ベッドから起き上がろうとした時だった。
「夏希くん、夏希くん」
まるで、隣で俺を呼んでいるような、あまりにも自然な呼びかけだった。
今度は夢ではない。確実に……隣にいた……。
俺の寝不足はさらに続き、最初に真奈美を夢で見てから、一週間が経っていた。
眠れぬ長夜、ぼんやりと天井を見つめ、こんなところにいつ傷が出来たのだろうと漠然と考えながら、真奈美と付き合っていた時のことを、ふと、思い出した。
真奈美の愛は重たかったが、いい女だった。料理は得意だったし、いつも俺を肯定し、尽くしてくれていた。普通に考えて、好きな人ができたら結婚したくなるよな。俺だから重く感じただけで、きっと真奈美は普通だろう。むしろ、理想的な女性に違いない。
それが、俺と出会ったばっかりに……。
──待てよ。
料理が得意……。真奈美は料理が得意だった。それに、自分の体形を気にしながらも、甘いお菓子を好んでよく食べていた。
そう考えると、俺の変化って──真奈美に似ていないか?
夢や、幻聴……。全て、真奈美に繋がっているとしたら……。
──妻の話が頭に浮かんだ。
「彼女、脳死状態なのよ」
「臓器を提供するみたいなの」
そんな……まさか……。そんな馬鹿なことがあるのか。
俺の心臓は……真奈美の……。
いや、そんな偶然あってたまるか。
しかし──。
つい最近、職場で行われた健康診断では、健康そのものだった。こんな、移植を迫られるほど心臓が悪ければ、その時にわかるだろう。それが、真奈美が自殺を図った次の日に突然倒れ、その翌日には移植を……。
そもそも、移植とは、こんなにもすぐにできるものなのか? 移植を待っていた他の患者はどうなる? こんなにもすぐ、俺に順番が回ってくるはずがないだろう。
何かがおかしい……。
混乱する中、またもや俺を呼ぶ声がする。
「夏希くん……真奈美だよ」
真奈美だ。やはり、真奈美だったのか。
それに、今の声……胸に響くような……まるで、真奈美が体の中から語りかけているような……
ま、まさか……本当に、この心臓……。
──夏希くん、これでずっと一緒だね
これからも……よろしくね
真奈美が、鼻歌を口ずさんでいる──。
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