9人が本棚に入れています
本棚に追加
─2─
「いらっしゃい。どうぞ」
迎えてくれた陽向は、しっかりと化粧をし、綺麗なワンピースを着ていた。
「お前どうした、その恰好」
「これから、出かけるのよ」
「そうなの? それなら断ってくれてもよかったんだぞ」
「大丈夫、まだ時間あるから」
「そうか。それより、話って何だ? 俺も話あるんだ」
「あら? 夏希も? お先にどうぞ?」
「いや、お前から話せよ」
「そう? じゃ……。私、結婚することにしたの」
予想を斜め上えにいく言葉に、むせ返る。
「結婚って、お前、相手いたのか?」
「ええ、まあね。同じ職場の技師さんなんだけど、二年前くらいからね。付き合っていたというより、アプローチをされていたの。ずっと答えを出さずにいたんだけど、この間、プロポーズをされて。待たせていたし、こんなに私のことを大切に思ってくれているなら、信じてみてもいいかなって。あなたは私がいなくなっても平気でしょ? 他にいくらでもいるでしょうけど、そろそろ落ち着いて奥さんを大切にする時期なんじゃない? 天罰が下る前にね」
天罰か……。
「そっか、おめでとう。それで、これからその彼に会いにいくのか?」
「ええ。彼の仕事が終わる頃に迎えにいくわ」
「そっか、幸せになれよ」
「ありがとう。でも、さすがね、夏希。十年も一緒にいた相手が結婚すると言っても顔色一つ変えないんですもの。正真正銘の遊び人ね。少しくらいは寂しがってくれるかと思っていたけど。それで、あなたの話は?」
「──ああ、俺か? 大した話じゃないからいいよ。それより、そろそろ帰るよ。幸せの邪魔しちゃいけないしな」
「ええ? もう帰るの?」
「ああ、じゃあな……」
こうして俺は、一人になった。他の女とは一夜が限りが多いし、こんなに続いていたのは陽向だけだった。
いよいよ、天罰が下ったと言えるかもしれない。長年、呪われるだの、殺されるだの、散々言われてきたが、一番情けない幕閉めだ。
さて、明日からどう生きていくかな……。
最初のコメントを投稿しよう!