54人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
殺人を犯したあとのデートというものを、人間のほとんどは味わったことがないだろう。
というのも、そういうことに慣れていない人物が人を殺せば、その罪悪感にさいなまれてしまい、至福の時間を楽しむ余裕がなくなるからだ。
一昨日の記憶が蘇る。
トリカブトの葉を毟ったあと、西谷はキッチンでグツグツと煮えている鍋を捉えた。まるですべての舞台装置が小島を殺すためにあるように思えた。
西谷はこのチャンスを逃すまい、と湯気を発する鍋の中にトリカブトの葉を入れた。
そうするとちょうどほうれん草などの葉菜に紛れて目立たなくなる。こうすれば自動的に、トリカブトの抽出液が完成するだろう。
それからトイレから帰ったかのような演出で再び小島のもとに戻る。すでに西谷は真っ青な顔を用意していた。
あの愚かな小島には、先ほどまでトイレで嘔吐いていたかのように見えただろう。
それを見た小島は、満足げな表情でしばらく脅し文句を垂れたのち、西谷を解放した。
西谷は家を去る際、こっそり合鍵をひとつ盗むのを忘れなかった。
早朝、西谷が再び合鍵を使って小島の家を訪れると、彼女はすでに事切れていた。
西谷の仕掛けたトリカブトの抽出液に見事にやられたらしかった。
そのときの惨めな死に顔は、いまでも思い出せば笑いを堪えきれなくなる。
西谷は次に遺書の捏造にかかった。
パソコンにパスワードがかかっていれば彼女の筆跡を偽装したものを残そうとも思っていたが、意外にもパスワードのメモが壁に貼られてあったので、簡単にパソコンに遺書を残すことに成功した。
実にスムーズすぎる犯行だった。西谷はこうして一連の作業を終え、颯爽と小島の家を去ったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!