55人が本棚に入れています
本棚に追加
小島久美は、朝会が行われている間、西谷望をじっと観察していた。
教頭が話している中、西谷は神妙な顔をして聞いたかと思うと退屈そうに首を傾げたり、驚いた顔をしてみせたり、と、その脅威の美貌を七変化させていた。
男性には興味のないはずの小島でさえ思わず見とれてしまうほどの、端正な顔立ち——
しかしその美貌の裏に、邪悪な牙を隠していると、小島は確信していた。
容姿端麗であり、成績も常にトップに位置する。
一見、西谷はまさに非の打ち所がなく、彼のような人がほかに存在しないのではないか、と思ってしまうほど完璧だった。
いや、実際そうなのかもしれない。
しかし、この世の中、そのような間然のない人間など存在しないことを、小島は経験上よく知っている。
これまで小島は、人生の中で西谷に似たような人を何人も見てきた。女に周りを囲まれている光景も、人生を謳歌する恍惚に満ちた表情も。
そして、そんな彼らが失墜するところも——
人間必ずしも、どこかに穴が開いているのだ。その穴をつつかれたとき、いくら外見を取り繕っていようと、奈落の底に落ちていく。
小島はそのことを、よく知っていた。
今、視線の先で平然と呼吸をしている西谷望。彼が被ったヴェールを、はぎとる。
それが小島の使命なのだと、勝手に感じていた。
それはもしかしたら、ただ現実を受け止めたくないという欲望かもしれない。こんな完璧な人がいるはずがない、という幼い願望。
だから授業で担当である古文を教えている間も、小島は常に西谷に注意を向けていた。
彼は、しっかり板書をノートに写しているように見せていたが、実際は芯の出ていないシャーペンをノートにこすりつけているだけで、ノートは白紙だった。
それでも定期テストでは常時満点で、そのたびに小島は西谷という人間の異次元さを思い知らされたのだった。
朝会は終わり、男子生徒たちがキツネにつままれたような表情で体育館を去っていく。その雑踏に紛れて、西谷の表情はうかがうことができなかった。
最初のコメントを投稿しよう!