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「調子はどうだい、冬城くん」
デスクに座り、シルクハットのつばで遊んでいる冬城に、甲府警部は期待を抱かせた様子で話しかけた。
「もう一人、死者を出してしまいました」
「それは……そうか、我々の失態だね。今後このようなことがおこらないよう——」
「もう少し早く証拠がそろっていれば、事態が悪化することはありませんでした」
パソコンで資料を確認していた水戸は、その言葉を捉えて立ち上がる。
「ということは、すでに証拠はそろったということですか?」
「ええ」冬城は哀愁ただよう表情で、答えた。「ところで茨城さん、頼んでいたものの準備は?」
「はい、準備万端です」
やはり彼は、いつの間にか準備を整えていた。そしてそんな彼の力になれることに、水戸は少なからず嬉しさを覚えていた。
「ありがとうございます」
証拠がそろった、ということは、彼はついに西谷にあれを認めさせたということを意味する。
彼は少々抜けている部分があるものの、巧みな話術を持っていることに水戸は気づいていた。
そうして、気付かぬうちに掌の上で踊らされているのだ。どんな相手であろうと、彼はしっかりと蜘蛛の糸でとらえる。
彼の推理は、すでに前もって聞かされていた。
西谷がいかにして犯行に及んだのか。そして、彼が事件の犯人であるということを示す、唯一の証拠。
彼の提案は極めて斬新奇抜だったが、しかしそれと同時にあの西谷望という名の殺人鬼を落とすには、それしかないと感じた。
この勝負には冬城が、きっと勝つ。
冬城はシルクハットを被ると、いつもの余裕に満ちた笑みを見せた。
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