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オレには由緒正しき血統がない。そのためか、散歩中に出会うワンコに蔑まれているような気がする時があるが、単に妬みからくるものなのだろうか。
犬にも「生まれ」というものがある。オレの生まれた家では、子犬の頃からまともな躾も教育も受けさせてもらえなかったし、当然、遊園地へ連れて行ってもらったことや、観光地への旅行などは縁のないものであった。
そして、あげくの果てに捨てられた。
ある雨の日、捨てられて震えていたオレを今の飼い主の「よし江」ちゃんに、拾われたのだ。オレにも心がある。
今は、精一杯の感謝で、ご主人に仕えているのだ。
しかし、オレには夢もある。いつか、他のワンコを見返してやりたいのだ。そのため、たくさんの本を読んでもみたし、美術館やクラシックのコンサートへ足を運び、一流犬としての教養を自ら身に着けようとしてきた。
しかし、どうしても超えられないものがある。
それは、ノーブレスオブリージュをわきまえた気高いワンコとの間にある、どうしても超えることのできない深い谷であった。
どんなに努力して自分を磨こうとしても、全てにおいて、もう遅きに失したような気がしてならない。
そんな時、ふと考えることがある。
いったい自分は何を追いかけているのだ。
生きている間に、本当にやりたいことは何だったのかと。
※
「どうかしたの?ポチ、何だか難しい顔をして」とよし江ちゃんがオレを散歩に連れ出した。
「オッス!ポチ、今度また飲みに行こうぜ」と声をかけてきたのは、ノー天気な近所の雑種犬「二郎」である。
まったくあいつは悩みがないからいいなあ。
でもまあ、よし江ちゃんに飼われている普通の今が、オレの最大の幸せではないのか。(完)
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