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ナナ
「なぁーんだ、そんなことで悩んでたんだぁ」
他に相談できる方が思い浮かばなくて、わたくしはナナ様に面会の約束を取り付けて、クラシニアまで出向きました。ナナ様は応接室ではなくご自身の私室にわたくしを招いてくださいます。クラシニア名産の羊毛の絨毯の上に直に腰を下ろして、盆の上のお菓子をつまみお茶をいただきながらお話しする。王宮から出られない彼女だからこそ、その空間は極力、自分にとって最大限に寛げる空間を整えたい。というわけで、ナナ様にお会いする時はいつもこうした環境でした。
しかし、事のあらましをお話しし尽くすと、ナナ様は朗らかに笑い飛ばしてしまったのです。
「そんなことって……わたくしは真剣に悩んでおりますのに~」
「ごめんごめん、だってねぇ。グランティスの国民が今更そういうの反対しないって、スーちゃんもわかってるはずじゃない!」
グレス、という名前から「スーちゃん」というあだ名は些か不思議ですが、ナナ様はわたくしが幼少の頃に初めてお会いしてからずっと、わたくしをそう呼んでくださいます。ナナ様は我が国の先代女王エリシア様と同じく、いっときは神の器を持って生きておられました。ゆえに二十歳から体の老化が止まり、実年齢は五十代くらいなのでしょうが、現在の外見はわたくしと同年代。四年前に神の体から人の体にお戻りになられて、伴侶のコウ様との間に双子のお子様を授かりました。
その双子の弟のソウタ様は絨毯の上でお昼寝中。まだ幼くも女の子、姉のサナ様はわたくし達のお話しを興味深げに目を輝かせながら聞き耳を立てています。ナナ様の傍らにきちんと正座して、膝上に手を揃えながら。姉であるサナ様は次代女王候補ということで、ソウタ様よりも先んじて、礼儀作法の教育を受けているのだそうです。
「わたくしがわかっている、とは?」
「だって、スーちゃんのご両親もそういう婚姻関係でしょう?」
「あ……」
恥ずかしながら、わたくしの生活において母の存在感はあまりにも薄かったもので、すっかり失念しておりました。
我が母、グレイ・グランティスは他国で要職に就いている女傑です。父との出会いは剣闘場での親善試合でした。父は母の闘う姿に一目ぼれしてしまい、なんと数千の観戦者の眼前にて愛を告白してしまったのです。
もちろん、母はつれなくそれを一蹴します。私は生まれ育った自国の繁栄に終生尽くすと決めている、と。ならばせめて子宝だけでもグランティスに遺してくれないか、と、父はとんでもない要求をぶつけて縋ったのです。仮にも現国王のそんな姿に、観客の皆様も父を見守る関係者の皆様も唖然とされたでしょうね……。
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