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告白
その日は、わたくしがひと月後には、二十五歳の誕生日を迎えようかという時期でした。
ノア様からお知らせをいただいて、わたくしは王宮の一角……エリシア様とイルヒラ様が埋葬された、ボーディーの大樹の根元に立っていました。
烏滸がましいとは思うのですが……もし、ナナ様のおっしゃることが正しいのでしたら。エリシア様。イルヒラ様。どうか、わたくしを見守っていてください。無力なわたくしですが、せめて、勇気だけは出せますように。そう、お祈りさせていただきながら、約束の時を待っています。
「グレス様~、お待たせしました~」
テラ様を伴って現れたノア様は、いたって気安い、常と変らない態度でした。わたくしにとっては一世一代の場面なのですが、と思って、わたくしも苦笑してしまいます。ちょっとだけ緊張がほぐれたような気がしますので、それもノア様の心遣いだったのかもしれませんね。
そんなノア様とは対照的に、テラ様には困惑の色がありありと浮かぶ表情でした。わたくしも気付き始めていたのですが、テラ様は自分の内面が表情に出やすく、隠すのも苦手なようです。無理もありません。言語で自分を伝えられないのですから、表情まで隠してしまったら、自分の心を伝える手段を失ってしまうではないですか。無意識に、本能的に、それが習慣づいたのであろうと想像するのは容易いこと。
ノア様は事前に、今日、ここでわたくしとテラ様がお会いする理由について彼に説明してくださっています。だからこそ、そんなお顔をなさっているのでしょう。十年も前から面識はあった、けれどそれ以上の関係ではない相手から、このような場を設けられたという唐突な出来事に。
「つまり、お見合いってことですよね。わかりました。テラにもそう伝えておきますね」
今日のためにノア様とふたりだけで相談した際、彼はそう言いました。改めて言われると確かにそうですが、わたくしはそこで初めて気付きました。ノア様を仲人にした縁談とするならば、それほど格式ばった行為のようにも思わなくなり……。
わたくしは、女王として、とか、世継ぎを産むため、とか。そういった要因はとりあえず忘れたことにしておいて、ひとりの女としての自分の気持ちを伝えることにしたのです。
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