恋のキューピット大作戦

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僕の名前は“おいかけられる”。いわゆる「悪夢」の仲間だ。 皆さんも経験があるのではないだろうか、夢の中で「なにか」においかけられたこと。 その「なにか」が僕なのだ。 人によってライオンだとか、マフィアだとか、時には忍者だとか言われることもある。だけど、本当の僕に形はない。みんなが勝手に好きな姿をくっつけるだけなのだ。   僕には形はないけど、気持ちはある。だから、みんなに怖がられ、嫌がられることが、本当はとてもつらい。 悪夢仲間たちと話しているとみんな口をそろえて言う。 「好き、とかありがとう、とか言われてみたいよなぁ……」 僕らは一度もありがとうと言われたことがない。そりゃそうだ。みんな僕らに会うと、うなされて目が覚めて、ああ夢でよかったっていうんだ。 ある日、“おくれる”さんが言い出した。 「私たちでもいい夢になれるって証明しましょうよ」 “おくれる”さんは、いつもどこかふわっとしていて、時々誰も思いつかないようなことを言い出す。 「俺たち悪夢だぜ、いい夢になれるわけがないし、なっちまったら存在意義がなくなるじゃねえかよ」 “おちる”君が言って、盛り上がりかけていた空気が急に白けた。みんな困ったように顔を見合わせて、なんとなくその場はお開きになった。  結局、その場には、“おくれる”さんのほかに、 “しかられる” さんと“ころぶ”君と僕だけが残った。
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