その音色を、追いかけて

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「今度こそ、もっとずっと、あなたのピアノを聴いていたい」 まっすぐに、あなたを見つめながら言う。10年かけて見つけたんだもの、まっすぐ伝える以外ないじゃない。 「ねぇ、それプロポーズ?」 「え?そんなつもりは!」 慌てる私に、ニヤけた彼が続けてからかう。 「なんだぁ、じゃあさっき念願の演奏じゃなくて、王子さまのキスでお目覚めしてもらえばよかったかなぁ」 「ていうか、なんで私だけ名前知られてるの?」 気まずそうに笑いながら、彼が白状する。 「ごめん僕、あの頃すでに看護師さんに教えてもらってたんだよね」 「えー、ずるい!私なんて顔と声とピアノの音しか知らなかったのに、声変わってるし……かっこよくなってるし」 とても満足そうな顔をして、彼が言う。 「ふはは、じゃあこっそり僕の本名教えるから、耳貸して?」 「うん!」 素直に向けた私の耳を通り越し、いたずらっぽく笑いながら彼は頬にキスをした。 「もう!ふざけてないで教えてよ!」 プンスカする私をよそに、彼は話を逸らす。 「あ、そうだ李音ちゃんの先輩から伝言!今日そのまま上がっていい代わりに、あとで詳しくどういう事か説明しなさいって」 「うわぁー、それはヤバイなんて説明しよう?!」 「やっと王子さまを見つけたんです?」 「もう、からかってばっか!とりあえず謝罪の連絡しないと!」 新人のくせに仕事中倒れるなんて、大失態をやらかしてしまった。またこれから頑張って取り返さないと! 「李音ちゃん?まず、薬飲んでからね」 「はい、そうします」 私たちは、これからも決して当たり前ではない毎日を、不器用に噛みしめて生きていく。 生きることも、会えることも当たり前じゃないと知っている私たちは、きっと強い。 今日からは、2人の幸せを追いかけて。
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