9人が本棚に入れています
本棚に追加
「今度こそ、もっとずっと、あなたのピアノを聴いていたい」
まっすぐに、あなたを見つめながら言う。10年かけて見つけたんだもの、まっすぐ伝える以外ないじゃない。
「ねぇ、それプロポーズ?」
「え?そんなつもりは!」
慌てる私に、ニヤけた彼が続けてからかう。
「なんだぁ、じゃあさっき念願の演奏じゃなくて、王子さまのキスでお目覚めしてもらえばよかったかなぁ」
「ていうか、なんで私だけ名前知られてるの?」
気まずそうに笑いながら、彼が白状する。
「ごめん僕、あの頃すでに看護師さんに教えてもらってたんだよね」
「えー、ずるい!私なんて顔と声とピアノの音しか知らなかったのに、声変わってるし……かっこよくなってるし」
とても満足そうな顔をして、彼が言う。
「ふはは、じゃあこっそり僕の本名教えるから、耳貸して?」
「うん!」
素直に向けた私の耳を通り越し、いたずらっぽく笑いながら彼は頬にキスをした。
「もう!ふざけてないで教えてよ!」
プンスカする私をよそに、彼は話を逸らす。
「あ、そうだ李音ちゃんの先輩から伝言!今日そのまま上がっていい代わりに、あとで詳しくどういう事か説明しなさいって」
「うわぁー、それはヤバイなんて説明しよう?!」
「やっと王子さまを見つけたんです?」
「もう、からかってばっか!とりあえず謝罪の連絡しないと!」
新人のくせに仕事中倒れるなんて、大失態をやらかしてしまった。またこれから頑張って取り返さないと!
「李音ちゃん?まず、薬飲んでからね」
「はい、そうします」
私たちは、これからも決して当たり前ではない毎日を、不器用に噛みしめて生きていく。
生きることも、会えることも当たり前じゃないと知っている私たちは、きっと強い。
今日からは、2人の幸せを追いかけて。
最初のコメントを投稿しよう!