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その音色を、追いかけて
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どこからか、あの美しい音色が聴こえる。
あぁ、また私あの日の夢を見ているのね?
重たい頭を持ち上げると、部屋の中で王子さまのような衣装を着たままの彼がピアノを弾いている。あの日から、本当は心のどこかでずっと探していたその音色に、その背中に、自然と涙が流れた。
やだ、私いつまで夢の中にいるの?
私が鼻をすする音に気付いた彼が振り向く。あれ、おかしいな、夢の中なのに振り向いたのは大人になった彼だった。そのまま心配そうに近づき、涙が伝う私の頬を大きな手で包んだ。
「李音ちゃんが、生きててよかった」
そう言いながら、彼の瞳も潤んでいる。
頬に感じる温もりが、彼の大人になった声が、とても夢とは思えない。
「夢……じゃないの?」
「夢じゃないよ、ほら」
わざとギュッと強めに抱きしめられて、少し苦しい。この苦しさこそが、この温もりこそが、夢にまでみた現実。私たちは、生きることが簡単ではないと知っている。面と向かって笑い合えることが、当たり前ではないことを知っている。
「あなたの奏でる音を、探していたの」
「僕だって、いつでも見つけてもらえるように頑張ったんだよ?でも李音ちゃんが、この世界のどこかに生きてくれているのかさえわからなくて、不安だった」
「やっと、会えてよかった」
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