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外の世界
食後にたくさんの薬を飲むのが嫌いだった私も、16歳になった。
もう"理由"なんて追い求めもせずに、無の感情で錠剤の薬が飲めるくらいに成長した。喘息と貧血持ちだけど、体が大きくなるにつれて入院するほどのことも年々減っていった。
大人数の空間にまだ慣れず、学校には行ったり行かなかったり。けれど、いい加減消えてしまいそうな光を追い求めて、絵は描き続けていた。
「え、うそ……」
その瞬間は、突然やってきた。
夕食後のリビングで何気なく見ていたテレビに、見覚えのある面影を見つけた。背が伸びて声が低くなったその人は、なにかコメントと自己紹介をしている。確信は、持てない。なぜなら私は、彼の名前を知らない。変わってしまう前の声と、あの美しいピアノの音色しか知らないのだ。
「ねぇお母さん!たぶんこの人!病院のピアノの!」
珍しく動揺した様子の私を見て、お母さんもテレビの前に駆け寄る。
「へぇー、この人が?お母さんも一度、李音ちゃんの絵のモデルさん見てみたかったのよ、嬉しい!すごいじゃないデビューって書いてあるわよ!」
「有名人になってる……」
「じゃあ李音、メイクさんになったら会えるんじゃない?!」
「なにそれ、変なこと言い出さないでよ」
「看護士さんともよく盛り上がってたのよ?李音のメイク上手だって」
調子に乗っているお母さんをリビングに残し、また自分の部屋にこもる。
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