外の世界

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10年も前の約束なんて叶わないと身に染み始めた頃に、また突然私の視界に彼は現れた。胸が、ドキドキする。そうだ、そんなときは絵を描こう。いつものように、絵の具とパレットを広げる。新しいキャンバスの前に座る。 その日、私は何も描けなかった。 子ども同士の会話とはいえ、もう守れない約束で終わるのならば、いっそ二度と会うことなく生きたかった。まさか、私だけが一方的に彼を見ることのできる世界がやってくるなんて、思ってもみなかった。 ふと、入院中のことを思い出す。 いつだって、看護士さんの言葉は魔法の言葉だった。点滴を反対の腕に付け換えるのが大嫌いだった私を、いつも励ましてくれた。 「大丈夫、李音ちゃんならできるよ」 その言葉は、私を優しく包み込み、勇気をくれる。 狭い世界しか見てこなかった私の背中を、そっと外の世界へと押してくれた。
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