第二話 王都に彷徨う魂たち

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  藤壺は後宮にある殿舎(でんしゃ)の一つ、飛香舎(ひぎょうしゃ)の別名である。  七年前――、(きん)(じよう)(てい)の第一皇子が病にて亡くなったという。これにより、(おとうと)(みや)である第二皇子が(とう)(ぐう)(せん)()を受けた。  問題は亡くなった第一皇子の(せい)()()()殿(でん)(ちゆう)(ぐう)でなく藤壺の(によう)()であり、彼女もまた病で没し、皇子が亡くなったことで(じゆ)()だったのではないかとされたためだ。  呪詛をしたのは、孫を()()(みかど)に据えたい頼房ではないか――、第一皇子の乳母(めのと)であり、藤壺に仕えていた(ない)()(※女官の位)がそう叫んでいたという。  本当のところはどうだったのか――、口にしないまでも、()()もそう(うわさ)が残っているらしい。頼房としては、自ら疑いを晴らすために動けば「やはりそうだったのか」と思われたくなかったようだ。  ――だから、私か。  冬真の話を聞いていて、晴明は納得した。  いつもは帝を(たぶら)かしているだの、()(のう)で権力を得ようとしているだの言ってくる彼が、なにゆえ今回だけは調べろと言ってきたのか、晴明なら(ほか)(てい)(しん)たちに(あや)しまれずに始末してくれるだろうと踏んだようだ。  晴明は帝を誑かしてはいないし、権力を得ようとも思わない。  もともと()()という(しよう)殿(でん)(※内裏に上がれる立場)できる身分ではなかったのだ。晴明としてはそのままでも良かったのだが、(こう)(せき)を認められ、あれよというまに(じゆ)()()までになった。(くらい)を返せというのなら、いつでも返すつもりの晴明である。    (さん)()(きた)たらんと(ほつ)して(かぜ)(ろう)()つ――。  何かが起こる前は、(ぜん)(ちよう)が現れるというその()(ごと)く、王都で(かい)()が起き、内裏に幽鬼が(さま)()う。はたらしてどちらが先だったのかは不明だが。 (()()しの(はら)えが近いというに……)  夏越しの祓えとは、罪や穢れを(のぞ)き去る朝廷での行事である。 「いつも思うが――」  冬真が笑みを浮かべる。 「なんだ?」 「陰陽師とは大変だなと思ってな」 「思っていたら、仕事の邪魔はせんと思うが?」  (はん)(がん)で言い返した晴明に、冬真は「邪魔をしたつもりはないんだが」と答える。  冬真がやって来たとき、晴明は貴族たちから依頼された(れい)()を片付けようと筆をとった所だったのである。帰れと言っても冬真は終わるまで待つといい、背後で待たれてもである。これのどこが、邪魔をしたことにならないのか。
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