第二話 王都に彷徨う魂たち

6/6

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
 風の乗るその声に、木の(えだ)にいた彼女は()(ろん)に眉を寄せた。  声の主はいったい誰なのか。  そんな彼女の前に、ふっと神気(しんき)がひとつ降りた。 『珍しいこともあるものね? 青龍。あなたが降りてくるなんて』  その男は()(はだ)(かた)()てをつけ、腕に()()(から)ませた姿(すがた)(けん)(げん)した。 『あの声、お前にも聞こえていただろう。(たい)(いん)』 『人が蛟に喰われたって言っていたわね。でも変だわ。(あやかし)が出たのなら、晴明が私たちに何かしら言ってくる(はず)だもの』  二人は、晴明が使()(えき)する(しき)(がみ)であった。  しかし、青龍の晴明に対する反応は厳しい。 『あの()(ほう)(かた)()れするのは結構なことだが、(やつ)(くら)がりに半分染まった男だ。いつなんどき()ちるか知れぬ』  晴明は人間と妖の両方の血を引く半妖――。  そのことは当初からわかっていた筈である。  納得の上で、式神となった。 『相変わらず、晴明には厳しいわね。でも青龍、彼は私たち(じゆう)()(てん)(しよう)(あるじ)よ』  青龍は青い髪に青い(そう)(ぼう)をしているが、太陰は赤い髪に朱色の双眸をもつ。腰まで緩く波打って流れる髪を()き上げて、太陰は青龍を見据えた。 『奴が冥がりに陥ちぬと? まぁいい。その時は主たる器なしとみるまで』  言いたいことをいって(いん)(ぎよう)する青龍に(あき)れ、太陰は(ため)(いき)をついた。  十二天将は神――、普通なら異界にいて(じん)(かい)に降りることも人間に力を貸すこともない。  数年前――安倍晴明が、彼ら一人一人を訪ねにやって来る前までは。  太陰は、再び視線を前に戻した。  もうあの声は、聞こえては来なかった。 あれは、誰が誰に対しての声だったのか。  聞け。聞け。  我が声を聞け。  お前になら聞こえるはずだ。  さぁ、答えよ。  なにゆえなのか、そのわけを。     太陰は神力(しんりょく)()くして探ってみたが、その声の主は見つけることはできなかった。  もし本当に人が喰われたのなら、じっとしてはいられないのだが。  声も聞こえなくなった今ではどうしようもなく、太陰は一人、風に吹かれていた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加